看護師から転職して「保健師としてこれから一生この仕事に関わっていきたい」と考えているのであれば、保健師という仕事についてしっかり調べる必要があります。

「保健師は公務員だから、土日が休みで定時に帰れる。不規則勤務で、夜勤のある看護師よりは仕事がきつくなさそう」「健康な人が相手だから、病棟の看護師みたいに命にかかわる緊迫した状況が少ないだろう」と考え、看護師から保健師に転職を希望している人が多くいます。しかし上記のような転職理由で保健師になれたとしても、長続きはしません。

保健師には「人々の健康を支援する」という大切な役割があります。それを「保健師は楽そうだから」という理由で仕事を選んでいるようであれば、保健師の仕事で問題にぶつかったときに対処できる能力を磨いていないため、問題を解決できない場面に多く直面してしまいます。

すると、保健師として関わった人たちを健康にしたり、感謝の気持ちや笑顔を見たりできないため、徐々に保健師のやりがいを感じられなくなり、仕事を続けることがつらくなってきます。

今回はそのようなことにならないように、保健師を職業として選択する人が知っておきたい「保健師としてのやりがい」について話をします。

保健師の仕事のやりがいとは

保健師の仕事のやりがいとは、人々の生活に入り込んで隠れた健康問題を探し出し、解決に向けていろいろな提案をして働きかけることにあります。

保健師の仕事は楽ではない

「病気の患者さんに対応する看護師の仕事と違って、保健師の仕事は地域の人に健康になってもらうことがメインだから楽に行えるのだろう」と考えている人は多いと思います。しかし、実際は楽ではありません。

看護師は一般的には病気やケガをした一定の期間しか患者さんに関わりません。一方、保健師は実際に人々の生活の場に足を運び、生まれてから亡くなるまでのライフステージ全般に関わらなければなりません。看護師より保健師のほうが、より人間的で深い関わりを求められます。

また、看護師が対応する患者さんは、病気になって自分から病院を訪れるため、看護師が行う看護に協力的な人が多いです。他方で、保健師が対応する人は、不健康であっても予防という段階で介入する仕事であるため病識が薄い人が多く、保健活動に協力的でない人がたくさんいます。

保健師の仕事の一つである生活習慣病予防を普及することは、実は困難を極めます。予防の段階で人々の生活習慣を変えてもらうというのは並大抵の努力ではないからです。

例えば、あなたの健診の結果をみた見ず知らずの保健師に「体重が多いと将来、生活習慣病になる可能性が高くなるから体重を減らしたほうが良い」とアドバイスをされたらどうでしょうか。

あなたが病気に対する危機感や自覚症状をもっていないのであれば、「そんなことは知っている。余計なお世話だ!」と考えてしまう人が多いでしょう。

さらに現代社会は昔と違い、家族や地域の人間関係が希薄になっており、孤独な子育てやひきこもり、虐待、介護の問題などで家族の危機を招きかねない問題が多発しています。ますます各家庭が抱える問題は深刻化し、複雑化しているのです。

これらの問題に関わるということは、ときには相手に必要以上に警戒されたり、きつく拒否されたりすることが多々あります。保健師はこのような困難な状況にもたびたび立ち向かわなければならない仕事なのです。

保健師の専門性を生かして問題を解決する

保健師は警戒されても拒否されても、相談者の力を信じ、誠意をもって根気よく働きかける必要があります。保健師の努力の積み重ねによって、拒否していた人との間に徐々に信頼関係が芽生え、相談者は健康に意識が向き始めていくのです。そのときの感動こそ、保健師ならではのやりがいだといえるでしょう。

それは誰しもが解決できる簡単な問題ではなく、保健師としての専門性が問われる仕事となります。その専門性を生かして、問題解決の糸口を見出すことができたり、相手の方の苦痛や困難さ、息苦しさを少しでも楽にできるお手伝いができたりしたときには、保健師としての大きなやりがいを感じられます

そこで、以下に保健師Sさんが専門性を生かして問題解決をおこなった例をあげます。

Sさんは県の保健師として5年勤務しています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患った男性を担当したときのことです。ALSは全身の筋肉が動かせなくなり、いずれ呼吸筋も麻痺し、人工呼吸器を使用しなければ数年しか生きられなくなっていく難病です。

その男性はまだ働き盛りの年齢で奥さんと3歳の子供がいました。

Sさんが前任者から担当を引き継いだときには、病気を宣告されたあとでした。すでに介護保険を利用しており、ケアマネージャーのサービス調整を受け、ホームヘルプサービス(ホームヘルパーが食事・入浴・排泄などを介助するサービス)が提供されていました。男性は人口呼吸器を装着しないことを選択したため、一日一日が死に近づいている状態でした。

Sさんは自分の役割が何かよくわからないまま、男性宅を訪問しました。すると男性は自分の苦しい思いをぶつけるように、Sさんやケアマネージャー、ヘルパーさんにも「お前なんかいてもいなくても何も変わらないから出ていけ」「お前は無能だから担当を変われ」と何度もつらい言葉を浴びせられました。

そこでSさんは男性に対して「私は無能です。無能なので、何でもいいから聞かせてください。少しでも力になりたいのです」と男性宅を何度も訪問し、コミュニケーションをとるように心がけました。男性がパソコンで1文字打つのに10秒かかる作業をSさんは待ちました。そのうち男性はSさんに少しずつ自分の思いのたけを話すようになったのです。

するとSさんは、男性にはサービス提供者からさまざまなサービスを受けているにも関わらず、ゆっくり思いを聞いてくれる人がいないことに気づきました。そのため、Sさんは「男性が死ぬまでに望んでいること」「医療に求めていること」「ヘルパーやケアマネージャー、保健師に望んでいること」を一つ一つ丁寧に聞き出しました。

こうしてSさんはケアマネージャーやヘルパーに男性の気持ちを伝える代弁者としての役割を担い、関係の悪化を防ぎました。さらにALSという同じ病気で苦しんでいる人の集いを開催し、男性やほかのALS患者と専門の医師との関係を深めていきました。

徐々に男性の病気が進行して末期に近づいたとき、男性が「死んでもいいから北海道に行きたい」といいました。男性の担当の医師やケアマネージャーは何かあったらいけないからと反対をしたのですが、Sさんは男性が「家族と思い出を作りたい」といっていたのを思い出しました。

そして、Sさんは反対していた専門家たちを説得し、男性と男性の家族とともに北海道旅行の手配をしました。北海道旅行から戻ってきて1ケ月後、家族や担当医師、ケアマネージャー、Sさんに囲まれて息を引き取りました。

奥さんはSさんに「楽しい思い出をありがとうございます。たくさんの人たちに囲まれて、このような穏やかな表情をしたあの人を見送ることができて良かった」といっていたそうです。

Sさんは、時間をかけて男性が残したかったものを聞き取り、形にしていく役割を果たしました。もし男性はSさんと出会っていなければ、このような最期を送れなかったでしょう。

男性の死に対するやりきれなさや何もできない悔しさという苦しい思いを共有し、保健師としてできることを最大限に行った事例になります。

事例を通して同じ悩みを持った人をサポートする

次の事例では、数件の同じ事例から問題発見をして、同じ悩みをもった人をサポートするといったものになります。このように共通の悩みを発見することで、多くの人が一人で問題を抱え込まなくてもいいように影で活動するのも保健師の仕事です。

保健師Dさんは、市の保健センターで勤務しています。地域の人からひきこもりの相談を受けることがありました。

その中で感じたのが、「保護者である親が定年退職をして、時間に余裕ができるようになった時期にようやくひきこもりの相談をしてくる人が多い」ということでした。

Dさんが実際に数件の相談者宅に足を運ぶと、子供といってもすでに30~40歳代ということが多く、発達障害や統合失調症のような傾向があるにも関vわらず、そのまま治療を行わっていない方が多くいることを発見しました。

そこでこのようなひきこもりの相談全般を通して、Dさんの勤務するH市のひきこもりのケースを調べました。するとH市では、ひきこもりは乳幼児・学童期・中学校期などの義務教育のときには、学校の担任や市職員との話し合いの機会が設けられフォロー(支援サービス)があるのですが、義務教育が終わると途端にフォローがなくなることに気が付きました。

そこで義務教育の終了とともに、ひきこもりのフォローが終わってしまわないように、高校生以上の保護者に向けてひきこもりの研修や講演会、情報交換の場を作ることにしました。Dさんは、ひきこもりの保護者の会をつくり、その会と学校や保健所、市町村、支援センターなどをつなげていく役割を果たしました。

このようなつながりをもつことで、保護者だけで孤独に悩まずに公共機関に相談しやすい環境をつくりました。

さらに、同じ悩みをもった方がひきこもりの保護者の会に参加することで「どのようにひきこもりから立ち直らせたのか」など、家族や教員の話を聞くことができるようにしました。このようにして個人個人がひきこもりの対処方法を学べるようになりました。

ある家族は「この会に救われました。私はこの会がなかったら、一生息子とまともに口をきくことはできなかったでしょう。息子と口をきかないまま、私が死んでしまったら、これほど悔やまれることはありません。Dさん、ありがとうございました」とDさんに感謝の意を述べたそうです。

保健師が個人に対して医療的な意見をいうことは簡単です。しかし地域全体をみることができるのは、保健師だからこそ行えます。

Dさんは、同じ悩みを抱える家族同士が情報交換する場を作ることで学ぶ機会を作り、ひきこもりの家族に対して「悩んでいるのは自分だけではない」ことを知らせ、生活を前向きにすることに成功しました。Dさんの行動でH市のひきこもりをもつ家族の相談件数が減少傾向にあるそうです。

人と人をつなぎ、地域の活性化をはかる

上記のDさんの活動からわかるように、保健師は人と人をつなぐ役割があります。人と人をつないでいくことで、大きな力となって地域の活性化をはかることができます。

以下に保健師が行った人と人をつなぎ、それを地域の活性化に成功された事例を紹介します。

O市では独居の高齢者の孤独死が数件続けて発生したことがありました。独居の高齢者には、近隣のクリニックの医師や看護師にも声をかけ、ヘルパーも積極的に関わるようにしていました。

しかし独居高齢者をすべて把握することは難しく、高齢者のなかには、なかなか他人を受け入れられない人が多くいました。

あるとき、近所の人から「毎日見かける一人暮らしの高齢者を最近見ない」と市町村の保健センターに連絡が入りました。実際、保健師のTさんがそちらの家へ駆け付け外から声をかけたのですが、部屋の中は物音ひとつしなかったため、警察に通報し窓ガラスを割って中に入りました。

その家の高齢者は自分が脱水症状になっていることに気づかず、3日もほとんどベッドから動けない状態で発見されました。すぐに救急車で運ばれ事なきを得たのですが、このような事件に関わったTさんは「地域のつながりをもっと作ったほうがいいのではないか」と考えるようになりました。

そこでTさんは、特に独居の高齢者が多い地域のリーダー(地区の班長)を集め、マップに75歳以上の高齢者が一人暮らしをしている家に印をしてもらいました。そして、その地区で高齢者にどのような対応をとればいいのか話し合ってもらいました。

話し合いの結果、「高齢者を見守り、助け合うために個人情報を活用するのは漏洩にならない」という意見にまとまりました。そこで、それぞれの高齢者が近隣の人とどのような関わりを望んでいるのかを一人一人聞き出し、地区でその情報を把握することにしました。

これらの情報を得た班長は空き家を有効に使って、独居の高齢者が子供たちに書道や昔の遊びを教える会を定期的に開いたり、運動教室やカラオケ大会を開催したりするようになりました。そうしていると最初は受け身であった高齢者から、「次はこのようなことがしたい」との声があがるようになりました。

このように、Tさんは一人暮らしの高齢者が地域と積極的に関わる機会を作ることに成功しました。

これはTさんが考案した地域づくりの手法の一つであるマップ作成をきっかけとして、地域支援の体制づくりの舵を方向転換することに成功した事例です。Tさんが行った活動は、ほかの近隣の地域にも拡大していったそうです。

上記の例のように、人と人をつなぐことで一人では達成できなかったことが多くの人の協力を得て、地域の人々の活性化を図ることができます。地域の人にマップ作りを行ってもらうことで、高齢者の孤独死の問題意識が芽生えはじめ、自分がどのように地域に関わっていけるのか考えるきっかけを作ることができたのです。

保健師は自ら問題を探し、解決を行うやりがいをもつ

以上のように保健師は自らがかかわった問題から、根底に隠れている大きな原因を探し出し、解決することで大きなやりがいを得ることができます。

もちろん、仕事を行う上でときには失敗もするでしょう。しかし問題が難しければ難しいほど、解決への糸口を少しでも見いだしたり、不安や苦痛をやわらげたりする手伝いができたときには、満足感を得ることができます。

保健師は、解決への手がかかりが全く見えないような難問に立ち向かい、少しずつ解きほぐしながら一歩ずつ前に進んでいく仕事です。多くの保健師は、このような「難問への挑戦そのもの」に保健師としての誇りをもっているようです。

あなたも難問に立ち向かう勇気と努力、そして人へのやさしさをもって、解決へと導く頼もしい保健師になってください。