保健師に転職したいと考えている看護師は多くいます。看護師の免許があるからこそ、有効に使える保健師の免許です。しかも保健師は関わった人の健康を守り増進する仕事ですので、看護師が必要とする医療や健康に関する専門知識が大切になります。

しかしそれ以外にも看護師とは異なり、保健師だからこそ必要となる能力があります。それは、「人の表情やしぐさ、状況などから情報を読み取る力」「人の意識を変革させ、行動に移させる力」「人と人をつなげていく力」「問題に対して解決していく探求心」の4つです。

今からお話する保健師のこれらの能力ですが、これから保健師に転職して身に付けていくものでなので、今はあなたにその能力がなかったとしても不安に思ったり心配したりする必要はありません。

これから保健師になり、仕事を通してこれらの能力を伸ばしていけばいいのです。このことを保健師になる前に知っておき、意識して能力を伸ばすとよいでしょう。そうすることで、保健師の仕事をスムーズに行いやすくなります。

保健師に必要な能力とは

では保健師に必要な4つの能力をひとつずつ、それぞれの保健師の体験談をあげながら、わかりやすく解説していきたいと思います。

人の悩みを言葉やしぐさ、表情や状況から情報を読み取る力

保健師は人々の健康を守る仕事ですので、実際に地域や職場などに足を運び、初対面の人からも必要な情報を聞き取らなければなりません。このとき単にその人から話や悩みを聞くだけでなく、相手の表情やちょっとしたしぐさ、その場の状況から敏感に情報を感じ取ることが大事です。

この能力を活かした保健師の例を挙げます。

現役のときに小学校の先生をしていた独居の高齢者の女性がいました。この女性は今まで、特に介護サービスを利用せずに過ごしていました。

「とりあえず一度は挨拶をして様子を伺っておこう」と地域包括支援センターの職員とともに保健師Sさんがその家を訪問しました。初めはその女性は訪問を嫌がっていたのですが、どの家庭も訪問していることを伝えるとようやく家の中にあがらせてもらえました。

そこでSさんはこの女性には腰の痛みを抱えており、「健康に不安があり、日常の歩行に苦労するようになってきた。自分でもいろいろ試してみたけれど効果がなかった」ということを聞き出しました。Sさんは居間に見慣れない器械がいくつか置いてあるのをみていました。

そこでSさんは、この女性がSさんたちの訪問を嫌がったのは「もしかしたら理由があり、この器械が原因なのでは」と思いました。そして訪問販売について聞いてみると、Sさんが思った通りの問題が起こっていました。

この女性は高額の訪問販売の被害にあっており、退職金や年金の多くを器機購入につぎ込んでいることが分かったのです。

そこでSさんは、ダイレクトメールや電話番号から訪問販売の相手を特定し、弁護士の介入を行うことで代金の一部を取り戻すことに成功しました。そしてこの女性に対して日常の歩行で困ることがないよう、介護サービスで貸与できる歩行器を使ってもらうようにしました。

そうすることで、この女性は買い物や散歩に出られるようになり、地域の人との関わりができました。

これはSさんがこの女性との会話や見慣れない器械などから、可能性のある問題を読み取ったケースです。保健師として経験が浅いうちは、少ししかない情報から問題を読み取ることは難しいかもしれませんが、アンテナをいつも張り巡らせておくことが大切です。

人の意識を変革させ、行動に移させる力

人の生活習慣を変えるなど、保健師は今までの認識を変えていくという能力も必要です。その人の今までの行動を変えることは、「行動変容」といわれています。

例えば、運動不足の人に「運動は大切ですので、これから空いている時間に運動をしてください」というのは簡単です。しかし、その人が運動に対してどのような認識をもっていて、どう動機付けをすれば運動を行えるようになるのかを分析し、自分から進んで「運動をしよう」と導く必要があります。そうしなければ、人は行動に移すことはありません。

そもそも保健師が指導をしなければならない軽度の生活習慣病や生活習慣病予備軍の方は、症状が現れていないことが多く、自覚症状の乏しい人が多いです。

もし行動変容を起こしたからといって、急に体調がよくなったと実感することはありません。しかし、いま生活習慣を変えておかないと、何年後、何十年後は生活習慣病が引き起こす症状により、とても苦しんだ生活を送る可能性が高いのです。

このような方々にどのようなアプローチを行うことで、今までの生活習慣を変えてもらうことができるのでしょうか。何年も健康指導を受け持ち、5000人以上の人に対して良い結果を出している保健師Kさんのやり方をみてみましょう。

保健師Kさんは、「運動をしないと症状が現れることになりますよ。運動をしましょう」というような一般的な医師が勧める一方的な情報提供はしません。そうではなく、相手に納得をさせて、「今のままではいけない」と思わせ、相手から「運動をしよう」と自発的にいわせるようなアプローチをとっているのです。

例をあげますと、下記のような説明や質問を相談者にします。そして、これらの質問の中から相談者自身が答えを導きだしていくように手助けをするのです。

・ 「今の検査データから読み取れるあなたの体の状態とは現状どのようなものか」に関する説明

・ 「そのデータを維持していると今後数年で起こりうる可能性のある身体的な症状」に関する説明

・ 「現在、あなたの行っている生活習慣で何が生活習慣病を作り出していると思うか」という質問

・ 「どの生活習慣であれば、それをやめる、もしくは量を少なくしていくことができるか」という質問

・ 「最初に起こした行動をどう動機付けすれば継続させることができるか」という質問

・ 「改善してきたようであれば、次にどのような目標を立てたら自分は継続していくことができるか」という質問

相談者が説明に関して充分に理解できるように医療用語は使いません。また質問に対して困っているようであれば、Kさんが助け舟やヒントを出して答えを導いていきます。

Kさんが健康指導で大切にしていることは、相談者が中心となっている点です。保健師側からアドバイスを一方的に行うのではなく、あくまでも相談者自身に自分の健康についてしっかり考えてもらい、「自分から行動を変えていこう」と導いているのです。

行動を起こせるようになったら、「行動を続けているかどうか」について定期的に電話をするなどし、継続的にサポートをします。Kさんは相談者が行動変容したことに関して、相談者を尊敬し、励まし、現れた結果に対してともに喜びます。

Kさんは「『今までの行動を変えるということは、つらいときもあったけれど、Kさんがずっと見ていてくれて支えていてくれたおかげで本当に助かったよ』と、相談者から笑顔でいってもらえることが何よりもうれしい」といっていました。

一方的に「行動を変えたほうがいい」と伝えても、相談者は自分が今までしてきた習慣をそう簡単に変えることはできません。

保健師は、相談者にとって理解しやすい例え話やパンフレットなどを使い、相談者に自身ができそうなことを発見してもらい、行動を変える後押しをします。相談者に「それなら私でもできるかもしれない。やってみよう」と思わせることで、初めて人は行動に移します。

自分の体のことを考えてもらうようにし、今まで行っていた生活習慣を変えてもらうよう指導するのが保健師です。行動変容を続けて行っている場合は、共に喜びます。続けられなかった場合は、再度ほかの方法を考え直してもらいます。

このように保健師は、相談者にさまざまな方法でやる気を継続してもらい、結果を出す力添えをしているのです。

人と人をつなげていく力

保健師は人と人をつなげていく能力も必要です。これは個人で抱えている健康問題などを、「地域の人達にも意識してもらい広めていく」ということです。

個人の健康問題を支えるだけでなく、保健師は個人で相談のあった情報などを収集し、それを活かして広い地域での健康増進体制を作っていきます。それは保健師が「健康づくりの中心は個人だけではなく、住民全体だ」と考えているからです。

自治会などの地域住民が主体的に自分たちの健康を高めていけるように保健師は支援を行っていきます。地域で健康増進の体制を整えるために、ときにはNPO団体(特定非営利活動法人)に協力してもらうなど、多くの人たちの活動をつなげ、協力し合える関係をつないでいくのです。

それでは具体的に、人と人をつなげて地域を活性化した保健師Eさんの活動をみてみましょう。Eさんは市町村の保健師として働いています。

Eさんが担当するK地区には、高齢者を介護しているお嫁さんから以下のような相談がありました。

その方のご主人は転勤族であったので、お嫁さんが一人で寝たきりの義父と認知症の義母の介護をしていました。認知症の義母は、夜になると荷造りを始めて、家から出ていこうとするため夜の見守りが必要な方でした。

この生活をずっと続けていたお嫁さんは介護のストレスが溜まっていたため、義父と義母が比較的落ち着いている日中に、家の中を安全な環境にして地域のスポーツ活動に1時間程度参加していました。

しかし、その話を聞いた近所の複数の方から「あのお嫁さんは見守りが必要な義理の両親を放って遊んでいる」と噂される事態が発生してしまいました。

この話を聞いたEさんは、このような家庭は他にもあり、声を出せないで困っている人たちのためにも地域を変えていかなければならないと考えました。

認知症の義母を介護すること自体は家族の問題です。しかし、地域の人たちにも介護の大変さを分かち合ってもらうことができれば、ストレスを抱えた介護者は精神的に救われるのではないかと思いました。

そこで、Eさんは介護者による介護負担の現状を分かってもらうため、K地区の健康づくり委員さんたちと「介護を行う介護者のストレスとその解消法」についての勉強会を行うことにしました。この勉強会を開いたおかげで、K地区では徐々に地域住民が自主的に地域の介護者へねぎらいの声掛けを行うことが多くなりました。

その結果、お嫁さんはストレス発散で行っていたスポーツ活動のことについて、近所の方から何もいわれることはなくなったといいます。

さらにEさんの活動はこれで終わらず、他の地域で同じような思いをしている方がいるのではないかと考えました。そして、介護者の集いを立ち上げ、同じ思いで苦しんでいる家族同士をつなげました。

Eさんが行った保健活動の結果、地域の人々は自主的に活動を始めるなど、もともと地域住民がもっていた潜在能力を引き出すことで地域を変えていくことに成功しました。保健師の働きかけで地域の意識が変わっていけば、個人が救われるという事例になります。

人と人をつなげていくには、幅広いネットワークや周囲の人たちの協力がポイントです。「つなぐ」とは、個人や家族が住みやすい家庭を築き、地域の人たちがこういう町にしていきたいという想いを共有化していくことです。

保健師は個人と集団、個人と地域の間を何度も自分の足で行き来しながら、地域住民の想いに気づき、自分たちで動いていけるよう応援していくのが役割です。

経験の浅い保健師には難しいかもしれませんが、少しずつネットワークが広がっていけるように地域住民との想いを尊重した関わりを実践することが大切です。

原因を見極め、解決方法を探し出していく探求心

保健師は、関わった人がもっている悩みの原因を見極め、解決方法を探し出す力が必要です。

例えば、肺がん検診で「経過観察」とされた人が「タバコは体に悪いから辞めましょう」と保健師にいわれたとします。それがきっかけで自分の喫煙習慣に気を付けるようになってタバコが辞められる人がいれば、どうしてもタバコが辞められない人もいます。

タバコを辞められない人は、どうして辞められないのでしょうか。「ニコチンには依存作用があるから」と考える方もいるかもしれませんが、それだけが理由ではありません。

タバコを辞められない人は、タバコが唯一のストレス解消や楽しみなのかもしれません。もしくは周囲に気遣ってくれる人がおらず、「タバコを吸って死ねたらそれでいい。健康でなくてもいい」と思っているのかもしれません。

保健師には、相手の本当の気持ちや理由を探し出す能力が必要です。さらに奥深い観察力や分析能力をもち、原因を突き止めて解決策を考えだしていく探求心が大切です。

保健師のFさんの例をみてみましょう。Fさんは県の保健師です。

G市では、ある虐待の事例がありました。母親は上の子を児童虐待のため養護施設に預けている状態で2人目の子供の出産を控えていました。Fさんは、病院や保健所、児童相談所、市とも何度も話し合いを繰り返し、市の保健師と一緒に週に2~3度、家庭訪問をしていました。何度訪問しても留守のことが多く、玄関先で断られることもたびたびありました。

しかし手紙を書いたり、電話口で「困っていることはないか」など何度も接点を作ったりしているうちに、徐々に母親の警戒心が取れて、Fさんを家の中に入れてくれるようになりました。

Fさんが訪問を始めたときは、母親は上の子に行った虐待について否定しており、2人目の妊娠・出産に対して後悔の念ばかり口にしていました。Fさんはそのことを否定せず、母親の背中をさすりながら話を聞く役を何度も担いました。

するとその母親は若くして子供を産んだため、当時通っていた学校を中退し、両親からも見放され、まわりに育児のことを相談できる人がいなかったことをFさんにいいました。最初ははりきって行っていた育児も自分が想像していたものと違って困ったとしても、誰にも話をすることができませんでした。そのため、自分だけ浮いているような感覚を覚え、孤独だったことをFさんに告げました。

そのことを知ったFさんは、その母親と同世代の親子クラブを紹介しました。また、育児相談のときにその母親を呼び、他の世代の母親とも関われるようなきっかけづくりを行いました。

さらに、虐待を起こすのではないかと不安になっている母親たちのグループミーティングを行いました。定期的に母親同士の話し合いの場を提供し、その母親にも参加してもらいました。その中で母親たちは、育児を通してつらかったこと、うれしかったこと、不安なことなどを話しました。

このミーティング後、その母親はFさんに「自分だけではなく、母親になった多くの人は自分と同じ苦しい思いをしながら、それでも必死に母親をやっている。ときどき子どもがすることにイライラすることもあるけど、自分で自分を追い詰めすぎないようになった。もう子どもを叩かない」といいました。

最初は誰にもいえなくて困っていた悩みをいろいろな人に聞いてもらううちに、半年くらいたったころ、虐待していた母親は上の子を養護施設に引き取りにいくことができたといいます。

Fさんは諦めることなく、何度も足を運び、連絡を取り、この母親の心に寄り添いました。そうすることで母親の心を開かせ、不安や悩みを打ち明けてもらうことに成功しました。さらに知りえた原因から、同世代の親子クラブを紹介したり、グループミーティングを開いたりなどして解決策を提案しています。

人は誰しも一人で考え込んでいたら、不安でどうしたらいいかわからない気持ちに陥ってしまうときがあります。そのような人を保健師が後ろから支え、後押しします。そうすることで同じ悩みをもつ輪の中に入れ、悩みを共有できることで随分気持ちが楽になっていくのです。

ここで大切なのは、Fさん自身は「虐待に対してどう対処したらいいのか」というアドバイスを母親に行っていない点です。虐待したことを責めていません。あくまでも母親主体となって、母親に自分自身のしてしまったことを気づかせるように導いています。

保健師はコミュニケーション能力を養うべき

以上のように4つの事例をみながらお話をしてきましたが、保健師として必要なこの4つの能力は、どれにもコミュニケーション能力が大切だといえることです。どのような仕事を行うにしてもコミュニケーション能力は必要になるのですが、特に保健師を志望するのであれば、日ごろから意識して人とのコミュニケーションを行うようにしてください。

保健師に必要なコミュニケーションとは、ただの会話ではなく、人と向き合い、想いを共有化して関係を築くことです。自分の周囲のことに目を配り、些細なことにも気づく感性を磨いてください。

「もしかしてあの人はこういうことで困っているのではないか」「このような手助けを求めていないか」と相手主体で考えているうちに、保健師に必要なコミュニケーション能力が育っていきます。

今は人づきあいが苦手な人でも、誠意と熱意をもって向き合っているうちに徐々に信頼される保健師になっていくことが可能です。今日進んだ小さな1歩が、数年後には何万歩となって、保健師としてのしっかりした道を作ることにつながります。