いまは病院でずっと入院して最期を迎えるよりも、自宅や老人施設で最期を迎えるのが普通になっています。そのため訪問診療(往診)を実施している医療機関は非常にたくさんあります。

また高齢者としても多くは自宅での療養を望んでおり、国の方針でも在宅医療や在宅介護を推進しているのが現状です。そのため、医療現場は病院から在宅へとシフトしています。このような経緯から訪問看護や訪問診療といった在宅医療のニーズが大きいです。

そうしたとき、医師と同行する形で在宅医療に関わっていきたいと考える場合、訪問診療のあるクリニックへ転職することは優れています。

ただ看護師として在宅医療に貢献するとはいっても、中途採用を出しているクリニックによって訪問診療の形態は大きく異なり、仕事内容も変わってきます。それに応じて看護師としての勤務方法も違います。そこで、どのような点に注意して求人を確認すればいいのか解説していきます。

訪問診療(往診)は基本的に医師1人、看護師1人

訪問診療とは「病院やクリニックへの通院が困難な患者さんの自宅に、医師が定期的に訪問し、診察や処置を行うこと」を指します。訪問診療は、通常は医師だけでなく看護師も1人同行します。規模が大きな病院になると、ドライバーを抱えていたり、看護師が2人で同行したりするところもあります。

例えば私のクリニックでは、訪問診療は木曜日の午後のみ行います。午前中は外来業務を行い、午後から訪問診療に向かいます。

訪問診療を受けている患者さんの家族から「容態が変化したので空き時間に来てほしい」という往診の要請を受けた場合、まずは看護師だけで訪問し、患者さんの様子を医師に伝えて指示を仰ぐこともあります。

いずれにしても、緊急時以外は医師と同行しての往診になります。訪問看護ステーションへの転職だと、基本的に看護師一人だけですべてを行わなければいけません。そのため一般的には、ある程度の看護経験が必要といわれています。ただ往診の場合は医師が同行するため、大きな心配をする必要はありません。

そのため未経験看護師であっても問題なく転職できるのが往診クリニックです。どのような看護師であっても、経験年数に関係なく求人応募できるといえます。

受け入れ患者や看護師への点数加算

なお訪問診療とはいっても、病院やクリニックによって受け入れている患者さんの重症度レベルや居住環境などは異なります。

そのため、これら重症度レベルや居住環境などについて受け持ち患者の状況は一概にはいえません。この点については求人先に確認してみるしかないのです。例えば私の勤めるクリニックだと、独居の高齢者への訪問診療を実施していません。「患者さんに何かトラブルがあった場合、家族がそばにいて何らかの対応ができないとなると、手の施しようがないから」と医師は言っていました。

同居家族がいるからこそ、すぐに異変に気付いて電話することができるわけです。ただ、一人で住んでいる老人では無理です。そのためドライな言い方をすると、「重症度の高い独居老人に医療を提供しても症状の急変で助けることができず、意味がない」というのが医師の率直な意見です。

判断は医師によって異なりますし、求人票を見てもこれらの情報は表に出てこないため、転職サイトの担当者を通したり、面接などで直接聞いてみたりして情報を集めるようにしましょう。

・訪問診療で看護師の同行は点数に加算されない

ちなみに訪問看護での診療報酬は点数に加算されますが、訪問診療で看護師が医師に同行したとしても、同行した看護師の点数加算は認められていません。在宅医療で医師が看護師を同行させるのは「医師の厚意」となります。

ただ実際に往診をするには「患者宅への事前電話」「必要物品の準備」「記録の入力」などをする必要があり、これを医師が行うことはまずありません。看護師の仕事になるため、どの医療機関も訪問診療で看護師を基本的に同行させるというわけです。

最も多いのは訪問診療を含むクリニック

そうしたとき、訪問診療を行えるクリニックとしてはどのような形態になるのでしょうか。これについて、最も多いのは一般的なクリニックになります。つまり通常は内科クリニックとして運営しているものの、その一環として在宅医療を提供しているというものです。

例えば、以下は神奈川県横浜市の「訪問診療ありのクリニック」から出された求人です。

このように外来診療のほかにも、訪問診療を実施していることが分かります。こうした医療機関は非常に多く、メインは内科クリニックになりますが、そうした往診も実施している医療機関へ転職すれば在宅医療看護を実現できます。

なお実際のところ、往診をしているクリニックであっても、求人では在宅医療について触れていないケースが多いです。あくまでもメインではなく、往診はサブだからです。私が勤務しているクリニックもこうした形式ですが、通常の看護師業務ではなく在宅医療にも携わりたい看護師におすすめです。

往診メインのクリニックにて患者宅で医療を提供する

ただ中には、往診メインのクリニックも存在します。そうした往診クリニックで勤務すれば、来院してくる患者さんを相手にするわけではなく、在宅メインでの勤務になります。

こうした在宅医療中心の往診クリニックだと、一般的なクリニックのような感じではなく、雑然としたオフィスビル内で勤務することになります。以下のような雰囲気です。

患者さんを迎えるためのキレイな建物は不要です。そのため訪問診療メインのクリニックでは、オフィスビル勤務になることを理解しましょう。

そうしたとき往診クリニックからも当然ながら、看護師の中途採用募集が出されます。例えば、以下は神奈川にある往診クリニックで出された求人です。

訪問診療に同行する仕事内容であり、未経験やブランクありでも広く受け入れてくれる内容になっています。

在宅診療中心の求人のため、こうした職場への転職であれば、既に顔を知った患者さんの家にのみ訪問することになります。また医師との同行のため、未経験から経験を積んでいけば問題ないというわけです。

施設メインだと仕事内容は楽になりやすい

なお在宅医療とはいっても、必ずしも患者さんの家に行くわけではありません。施設在宅を実施している医療機関は非常にたくさん存在するため、往診クリニックの中には施設メインのケースもあります。

実際のところ、患者さんの家を一軒ずつ訪問するのは大変です。患者宅はそれぞれ離れていますし、在宅医療を提供するにしても1日の訪問件数は限られるようになります。そうしたとき医療経営を考えるのであれば、介護施設などに出向いて一気に多くの人を診察したほうが効率はいいです。

そのため往診クリニックの中には、施設メインで活動しているケースもあります。例えば、東京にある以下の往診クリニックがこれに該当します。

「訪問は施設がメイン」とあり、施設在宅ばかり実施しているクリニックだと理解できます。在宅医療とはいっても、当然ながら実際の患者宅を訪問するのと、介護施設へ出向くのでは往診内容が大きく異なるようになります。

施設在宅の場合、往診クリニックでの業務としてはかなり楽になります。車での移動は少なくなりますし、効率的に患者さんの相手をすることができます。ただ「本当の在宅医療に携わりたい」と考える看護師にとっては物足りなくなるのが施設在宅です。

これについて、「どの形態の訪問診療が優れている」という正解はないため、あなたにとってどういう形で訪問医療に携わりたいのか事前に理解しておきましょう。

往診クリニックだと土日休みの日勤勤務となる

そうしたとき、看護師が往診クリニックへ転職する場合にはどのようなメリットがあるのでしょうか。これについては、土日・祝日休みになることがあげられます。

在宅診療をサブで実施している内科クリニックだと、通常のクリニック運営となるため、土曜出勤が発生します。ただ往診クリニックの場合、平日のみの日勤業務となります。夜勤はなく、土日休みを実現できる珍しい看護師転職となります。

実際のところ、往診クリニックだと高確率でどこも土日休み&日勤のみの勤務です。例えば、以下は東京にある往診クリニックでの看護師募集です。

このように日勤のみの勤務であり、土日休みです。特に子供のいる看護師だと、子供のイベントもあり土日休みかどうかは非常に重要な問題となります。そうしたとき、訪問診療がメインの看護師転職は選択肢の一つに入ります。

オンコールの有無は調べておくべき

ただこのとき、オンコールありかどうかは確認するようにしましょう。いつでも出勤要請に応えられるように待機するのがオンコールです。そのためオンコール中はアルコールを飲んではいけませんし、どこかに遠くへ外出してもいけません。

近所へ買い物に出かけたり、子供の送り迎えをしたりするくらいなら問題ありませんが、基本的にはオンコール中は自宅待機となります。

もちろん実際にオンコールとして外出できなくなるケースもあります。こうしたオンコールがあるかどうかを事前に確認するのです。例えば神奈川県横浜市から出された以下の求人だと、オンコールなしとなります。

もちろん、必ずしもオンコールありが悪いわけではありません。オンコールなしとオンコールありを比べたとき、年収は格段に「オンコールありのほうが高くなる」と考えましょう。病院勤務でも、夜勤ありだとそれだけ給料が高くなります。これと同じ感覚がオンコールの有無になります。

高い年収・給料を実現できる在宅診療の看護師

そうしたとき、在宅診療がメインのクリニックだと看護師の年収はどのようになるのでしょうか。これについては、わりと高めの給料となります。

訪問診療をメインに運営している病院やクリニックでは、基本給は一般的な病棟看護師と変わりませんが、「休日当番手当」「オンコール手当」「時間外出勤手当」といったプラスアルファの手当が付くことがよくあります。

これらの手当を合算すると、月7~10万円くらい加算される病院やクリニックは普通です。例えば以下の大阪での往診クリニック求人だと、最初から月35万円の給料となります。

「資格手当:5万円」「訪問手当:5万円」であり、合計で月10万円が加わります。この求人の場合はオンコールありなので給料は高めですが、これに賞与(ボーナス)が加わることで最初から年収500万円以上となります。

またオンコールとはいっても、待機中に毎回あるわけではありません。さらに病院での夜勤のように、必ずしも深夜勤務になるわけでもありません。またオンコールが実際あれば、先ほどの給料に加えて「オンコールで働いた時間外の給料」が加わるようになります。

そういう意味では病院の夜勤勤務よりも待遇はよく、それでいて高年収を実現できるのが訪問診療で働く看護師だといえます。

履歴書や面接での志望動機を考える

ただ実際に在宅医療を提供するクリニックへ転職するためには、志望動機・自己PRを考えなければいけません。これら志望動機は履歴書に記載する必要がありますし、面接の場面でも志望動機を必ず聞かれるようになります。

そのため事前に志望動機を考えなければいけませんが、「なぜ在宅医療を経験したいのか」「応募先の往診クリニックでなければいけない理由」を考えるようにしましょう。

「土日休みを実現できるから」「高い給料になるから」などの志望動機を記してはいけません。そうではなく、看護師として在宅医療の現場でどのように活躍できるのか自己PRする必要があります。例えば、以下のような志望動機になります。

ケアミックス病院で勤務していましたが、病院から在宅へ切り替えしたところ、笑顔が戻った患者さんを何人も目の当たりにするようになりました。そこから自宅のほうが患者さんとしてありのままの生活を実現できると気づき、それを支援できないかと在宅看護を志すようになりました。

特に貴院は自宅療養の患者様に限らず、施設まで含めて経験できると聞いています。また医師との同行のため、在宅診療でどう判断し、看護を行えばいいのか間近で医療を学べるのも魅力に感じています。

訪問看護ではなく、医師と同行での訪問診療なので、この点を志望動機に挙げるのは問題ありません。これに加えて、応募先の往診クリニック独自の取り組みをピックアップしつつ、履歴書や面接で志望動機・自己PRを述べるようにしましょう。

訪問診療の面白さは医師次第

参考までに、私が実際に訪問診療での在宅医療を経験してみて思うのは、「在宅診療の面白さは院長(医師)にかかっている」という事実です。

幸運なことにも、いま私が勤務しているクリニックは院長の性格がよく、さらには訪問診療で医師に同行したとき医療知識が増えることに充実感を覚えます。また「患者さんが自宅で治療を続けるサポート」の経験を積み、他では味わえないやりがいを得ることもできています。

しかし反面、同行する医師と反りが合わなければかなり苦痛になるのが在宅診療だといえます。

実際、私の友人で訪問診療に出向くクリニックで働いている看護師がいます。日頃から医師との関係が悪く、コミュニケーションをあまり取っていないため、訪問診療に向かう車中は終始無言で気まずいといっていました。友人は訪問診療への車中、ずっと外を眺めているそうです。

そのようなことではせっかく医師から直接医療や治療方針について学ぶ機会があるにも関わらず、その機会を利用することができずに辛い時間を過ごすだけになってしまいます。

そのため転職するにしても、一番重視するべきは「面接のときに医師へいろいろ質問し、院長と一緒に仕事をするのが問題なさそうかどうかを確認すること」だといえます。

看護師転職で訪問診療のクリニックを選択する

どのような職場で勤務するのか考えるのは看護師にとって非常に重要です。そうしたとき、一つの選択肢になるのが往診クリニックです。在宅診療メインのクリニックになるので医療機関全体としては珍しいですが、そうしたクリニックで勤務することも可能です。

このような在宅医療の場合は医師と同行であり、訪問看護のように看護師一人ですべてを行うわけではありません。それでいて収入は高く、日勤だけにも関わらず高年収を実現できます。もちろんオンコールありかどうかで収入は違ってきますが、それでも給料は高く待遇は優れているといえます。

そのため土日休みを目指したいものの、看護技術をこれまで通り磨きながら在宅(患者宅)にて医療に貢献したい看護師におすすめです。

もちろん訪問診療とはいってもクリニックによって形態は違いますし、施設在宅メインのクリニックもあります。こうした違いを理解したうえで、院長先生の人柄がどうなのかを重視しながら求人に応募し、転職するかどうかを決めるといいです。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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