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日本看護協会によると、毎年、常勤の看護師で約11%、新卒の看護師で約8%の方が離職しています。夢や希望を抱いて入職した病院だったはずですが、どうしてこんなに多くの看護師が離職を経験することになるのでしょうか。

看護師が離職する理由として「自分が描いていたようなスキルアップができなかった」、「労働に対しての給料が低すぎた」、「仕事がハードで体がついていかなかった」「育児に専念したかった」などをあげています。しかし、それは上司に辞職理由を話すときの建前として話されることが多いです。

本音としては、「人間関係の悪さ(いじめ・パワハラ)」という理由が多いのが看護師の転職理由の実情だとされています。

そこで看護師が「いじめ・パワハラ」などで悩んだときにどのように対処したらいいのでしょうか。ここでは、いじめやパワハラに対する具体的な5つの対策方法を述べていきます。

いじめ・パワハラとは何か

まず、いじめ・パワハラとはいったいどのようなものなのでしょうか。

言葉の意味としては、「いじめ」「迷惑行為」「侮蔑」「差別」などをまとめて「パワハラ」といいます。パワハラとは、言葉どおりパワー(権限、力など)を利用してハラスメント(いやがらせ)を行うことです。

厚生労働省の「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」によりますと、パワハラの定義は以下のようになります。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をいう」

つまりパワハラとは、権限を利用して精神的・身体的苦痛を与えるという意味になります。その中でも「権限を利用して」という言葉から考えると、上司など自分より目上の者から受けた苦痛を意味すると捉えてしまいがちです。

しかし、「職場内の優位性を背景に」という言葉があるように、上司だけでなく、相手に精神的・身体的苦痛を与えるだけの実権をもっている同僚や先輩・後輩で起こったこともパワハラといえます。

看護師で起こりやすいパワハラとは

それでは、看護師で起こるパワハラにはどのようなものがあるのでしょうか。以下に挙げてみます。

・ミーティングなど、みんなの前で上司が部下を非難する

・上司や同僚から、人格を否定するようなことを言われる

・患者さんの前で「この看護師は人としてなっていない」などと言われる

・挨拶をしても無視をされる

・忘年会など、みんなで行う行事に誘われない

・「私の仕事を手伝わないで」と仕事の手伝いを拒否される

・看護師であるにもかかわらず、掃除しか行わせてもらえない

・妊娠を告げたら「フルタイム」から「パートタイム」への異動を勧められた

こうしたことが、看護師の間で行われやすいです。

指導という名のパワハラが看護師の間では横行している

看護師の間でよく生じるケースとして、新人の看護師に「指導」と称して、パワハラが行われていることがあります。指導とパワハラの線引きは非常に難しいとされていますが、「指導だ」「パワハラだ」と争っている時点で、すでになんらかの問題が起きているといえます。

もし、このようなことが起こった場合はどちらの主張が正しいかを判断するのではなく、どうして双方の意見が食い違っているのかを考えてみることが大切です。問題を放置していると、もっと複雑になってくる可能性が高いです。

問題が大きくなる前に、第三者を交えて双方で話し合う場を設け、今後どのように改善を行なっていけばいいのか具体的な方法を示すことができれば、パワハラは解決に向かう可能性が出てきます。

しかし、指導しているほうもパワハラと気づかずに、単なる指導だと思い込んでいる場合などは問題が生じてきます。よく耳にすることですが、ミスをした新人をみんなの前で「何やっているの! 本当に看護師免許もっているの?」と怒鳴ったあと、原因や対策についてのフォローがされないままのことがあります。このようなことを言われた新人は精神的に苦しくなります。

たとえ仕事上の指導であったとしても、相手の人格や尊厳を否定するような言い方をされてしまうと、それは人権侵害にあたります。しかも改善策を提示されないとなると、次にどのように注意すればいいのかわかりません。

パワハラと指導の違い

単に感情をぶつけた言葉がけと、育てていこうとする言葉がけとでは、指導の言葉は違ったものになります。また言われたほうも受け止め方が異なってきます。

例えば新人看護師が、足の悪い患者さんが立ち上がろうとしたのを見かけたため、とっさに後ろに転倒しないようズボンのベルトをつかみ補助したとします。ほかの患者さんにもこうやって立ち上がらせることはよくあることです。そのため、この患者さんにも同じように手を貸したつもりでいたのですが、患者さんはひどく怒ってしまいました。

そんなとき、先輩看護師によるパワハラの言葉がけは次のようなものです。

「どうして患者さんのベルトをいきなりつかんだの! あの患者さんが嫌がっていたの分からなかった? 私が若いときには、患者さんがどうして欲しいかすぐに分かっていたけど。全部こちらが細かく言わないと分からない? 最近の新人は甘やかされている」

このような言葉がけで、新人がわかったことといえば、「先輩看護師は仕事ができる人間で、自分は仕事ができない人間」ということです。言った先輩は新人に対して精神的な優越感を持ち、言われた新人は劣等感をもちます。

さらに新人は同じような場面に出くわしたとき、どのように対処していいかわからないままです。この新人は、本来はズボンのベルトをもって立ち上がらせた方が良いケースであっても、ほかの患者さんにもそうした看護を行うのをためらうようになるかもしれません。

一方、指導の場合の言葉がけは以下の通りです。

あなたさっき、患者さんのベルトをもって立ち上がらせたでしょ。あの患者さんは自尊心が高い人から、それが嫌だったみたい。そういう性格の患者さんであれば、自分で立ち上がるまで安全に配慮しながら、患者さんのそばで待っていた方が良かったかもしれないね。

転んではいけないからと思って、さっと行動に出たあなたの優しい気持ちはうれしいけれど、患者さんに合わせた看護も大切ね

このような言葉がけにより、先輩から自分の看護のやり方を否定されることなく、新人看護師はより視野を広げた看護の方向に導かれています。次はもっとこうしてみようと自分で工夫できる看護を行い、自分から努力できるようになります。

いじめやパワハラが起こりやすい病院とは

ただ、看護師の人材不足による過重労働を強いられている病院では、指導ではなく、いじめやパワハラが起こる可能性が高いとされています。

看護師一人一人に任されている仕事が多すぎると、お互いの仕事をカバーできないだけでなく、ほかの看護師が起こしたミスにより自分の仕事が増えてしまうように感じてしまいます。そうして、職場への不満が募っていきます。

多忙のせいで口調は乱暴になり、「お願い」が「押しつけ」や「命令」に代わりやすくなります。さらにコミュニケーション不足も生じ、些細なことで行き違いがおこり、お互いの不信感にもつながっていく可能性が出てきます。

しかし、人材不足による過重労働はあなた一人がすぐにどうにかできることではありません。そこで、「人材不足によるいじめやパワハラ」に対して、あなた一人の力でどのような対策をとっていったらいいのか以下に具体的な方法を記します。

いじめ・パワハラに対処する5つの具体的方法

1.自分を振り返る

もしかしたら、あなたは他の人に対して無意識かもしれませんが、嫌な思いをさせているのかもしれません。あなたはいじめを受けている被害者ではなく、もしかしたら加害者かもしれないのです。

人を嫌いと思う理由は主に7つにまとめることができます。不愉快な気持ちから人を嫌いに感じますが、そのときの感情が以下の7つです。

軽蔑:容姿や身だしなみが整っていない、話し方が威圧的、おどおどしている、教養が低い、マナーが悪い

裏切り:相手が自分の期待に応えてくれない

嫉妬:自分と同じレベル、もしくは自分よりも低いと思っていた人が自分より周りから賞賛される

否定:自分の存在を否定的に扱われたり、攻撃されたりする

投影:自分の性格で認めたくない部分(例えば「ケチ」や「見栄っぱり」などの行動)を相手がとっている

差別:自分とは違うグループに相手が属する

軽視:自分の存在を無視したり軽んじたりされる

もし、相手があなたを嫌っている理由が分かれば、それに対して対策をとることができます。あなたは知らず知らずの間に他者に対して、上記のような行動をとっている可能性があります。

理由がわからないようであれば、相手か、もしくは相手をよく知る第三者に「どうして私を毛嫌いしているのか」について尋ねてみるとよいでしょう。理由がわかれば、言われたことを直せばいいのです。

2.自分が悪いと思い込まない

しかし、言われたことを直してもいじめやパワハラが続いているような場合、必要以上に「自分が悪かったのか」と思う必要はありません。

特にパワハラの多くは、職場になんらかの原因があることが多いです。相手があなたを攻撃してくることに明確な理由はなく、ストレス解消や周囲に自分の権威を見せたいためにしている場合があるからです。

そのため、「自分が悪い」と思い込む必要はないのです。あなたはなにも悪くありません。

パワハラを我慢し続けていると、自信を失い「自分は看護師に向いていない」「仕事ができない自分が悪い」などと思いはじめ、問題が深刻化してきます。

3.相談役をつくる

問題が深刻になる前に、職場の中に誰か信頼できる人を見つけて相談しておくことが大切です。小さな問題だと思って放っておくと、大きな問題にまで発展してしまうことがあります。小さなうちに対処しておけば、解決のときに時間や労力、精神的苦痛はそれほど生じません。

まず、「パワハラかもしれない」と感じたら、同僚の中で信頼できる人や上司に相談してみましょう。パワハラは職場に原因があるために生じている問題なので、できれば職場の中の誰かに話すことで問題を客観的にとらえることができます。

もし上司からパワハラを受けているようであれば、その上の上司に相談するとよいでしょう。また、院内に相談窓口や労働組合がある場合はそちらに相談するとよいでしょう。

院内に相談窓口がない場合は、地域のユニオン(合同労組)があるので、話してみることをおすすめします。ユニオンは多くの場合、地域ごとにサイトをもっていることが多いのでインターネットで検索することが可能です。

相談窓口の一部を掲載しておきます。

・パワハラ・メンタルヘルス相談

いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC):いじめで困っている労働者の職場改善や心の病気で体調を崩している労働者の職場復帰を行っています

全国労働安全衛生センター連絡会議(JOSHC):地域安全センター(労災職業病)として、労働者の安全と健康を推進する全国ネットワークです。

一人でも入れる労働組合

コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク:パートや派遣など一人でも、だれでもメンバーになれる地域社会に密着型の労働組合です。

病院には「使用者の安全配慮義務」があり、雇い入れた病院は、看護師が職場で安心して働き続けることを保障する責任があります。労働契約法5条では、使用者の安全配慮義務があります。また労働安全衛生法1条でも労働者の安全と健康を確保することが義務付けられています。

相談窓口に訴えるときには、パワハラを受けたことを具体的に記録に残し、具体的な資料や証拠として残しておくことが大切です。

また、パワハラを受け続けると、自分でも気づかないうちに心身に不調が出てくることもあります。「しっかり睡眠はとれているか」「食欲はあるか」など自分の体調をチェックすることが大切です。

4.部署を異動する

病院や上司に相談したけれど大きな変化はみられず、その職場で勤務し続けることが困難な場合は、他の部署への異動を願い出てみましょう。環境が変われば、心機一転やっていけることもあるからです。

5.  転職する

しかし、部署異動が認められない場合は、転職を視野にいれましょう。病院の規模が小さかったり、クリニックで働いていたりするなど他部署への転勤・異動が困難な場合も同様に、転職まで視野にいれるといいです。

最も注意しなければならないのは、あなた自身が壊れるまで今の病院に留まってしまうことです。

看護師の転職理由の上位は常に「人間関係」です。人間関係のトラブルによる転職を恥ずかしいとは思わずに、これからのスキルアップのために必要なステップととらえ、前向きに考えて進んでいくことが大切です。

もし、次の転職先の病院のことが不安でしたら、転職サイトなどを利用して、コンサルタントやアドバイザーに事前に希望先の病院の細かい情報をもらっておくようにしましょう。

転職後も、あなた担当のコンサルタントが順調に看護師として働けているかどうかを病院との間に入ってやり取りしてくれるので心強い味方となってくれます。転職先に不安を抱いている方は転職サイトに登録をしておくとよいでしょう。

あなたは一人ではありません

当サイトの管理人である私自身も、30代半ばで看護師となり、新人のころに地獄のようなパワハラを受けた経験があります。看護師長からミーティングのときに怒鳴られることで始まり、それを見ていた同僚からも嫌がらせを受けました。

看護部長に、わらをもすがる思いでパワハラを受けていることを相談したのですが、「そんなことする人がいるの? でも、病棟の雰囲気が悪くなったらいけないから、ここはあえて誰がしたか聞かないでおくね」と言われました。

必死の思いで看護部長にまで伝えたのですが、動いてくれることは全くありませんでした。パワハラを隠ぺいされただけでなく、看護部長はきっと師長に私が訴え出たことを伝えたのだろうと考えると、さらにパワハラがひどくなることが想定できました。そのため、仕事中、気持ちが休まることがありませんでした。

パワハラを受けている頃は、弱い自分を責めました。「看護師に向いていない」と頭の中でずっと考えていました。その後、パワハラは思ったとおり、言葉の暴力だけではなくなってきたため、私は新卒で入った病院をわずか10ケ月で退職することとなりました。

その後2回病院を変わったのですが、いまではようやく自分に合った病院に巡り会え、充実した日々を過ごしています。そして現在、改めて思います。

「看護師を辞めないでよかった」

ある日、前の病院でお世話をしたことのある患者さんが、わざわざ私を探していまの病院までお菓子を届けにきてくれたことがありました。

「あなたにしてもらった看護が忘れられなかった、お礼がしたかった、ありがとうございます」

あなたは一人ではありません。間違ってもいません。看護師でいてください。あなたの周りにはあなたを応援してくれている人がいます。あなたの看護を待っている患者さんがいます。

ちょっとしたミスをオーバーに責められて落ち込んでいる場合でも、パワハラを受けている場合でもありません。いまから前だけ向いて、いじめやパワハラにくじけず、部署替えや転職まで視野に入れて一歩を踏み出しましょう。