民間病院やクリニック、施設などで働いている看護師の中には、大学病院へ転職希望の人がいます。全体の人数としては少ないですが、中途採用にて大学病院を目指すのです。

病院やクリニックでは達成できなかったことであっても、高度な医療を提供する大学病院であれば多くを勉強できます。そうした看護師では、全員が気持ちを新たに大学病院での勤務を目指します。

ただ、「最先端の看護技術が身につけられるので、やりがいを感じることができるだろう」「大学病院で働くと、次に転職してもどこでも勤められるだろう」などと安易に考えて働き始めると、イメージとのギャップに悩み、働きにくさを感じてしまいます。

そこで看護師が大学病院に転職する前に把握しておきたい「大学病院の特徴や仕事内容はどうなっているのか」「年収はどうか」「志望理由として何を記せばいいのか」などを解説していきます。

大学病院は教育や研究の役割も存在する

同じ病院であっても、民間病院と大学病院では性質が異なります。民間病院は主に診療を担っていますが、一方の大学病院では診療のほかに教育や研究の役割があります。

このときの診療では、民間病院では治療困難な難病などであっても、大学病院は最後の砦として高度医療を提供していきます。こうした難病について、一般的な治療方法の枠組みから外れて医療を提供することもあります。いわゆる研究であり、新たな治療法の研究を行うことで論文として発表するのです。

こうした先進医療技術を積極的に導入していることから、民間病院では見ない疾患の患者さんに遭遇することはよくあります。その分だけ、看護師としての医療に対する見識は広がります。

また大学付属の病院であることから、「医師や研修医、看護師など医療従事者への教育・研修を行う場」でもあります。そのため、民間病院よりも大学病院のほうが勉強会や研修会、看護研究などが多く行われており、教育環境が整えられているといえます。

もちろん教育機関であることから大学病院では看護師の教育体制だけでなく、教育のレベル分けが行われており、中途採用の看護師にも充実した研修が準備されています。当然ながら認定看護師や専門看護師などの資格支援制度も充実しており、より高度な技術習得が可能です。

民間病院にはない大学病院転職のメリットは最新医療・難病知識

そうしたとき、民間の病院やクリニックなどではなく大学病院で働くメリットには何があるのでしょうか。これについては、第一に医療に関する最新知見を入手できることがあげられます。

大学病院は研究機関であることから公立や私立に関わらず、国から補助金を受け、臨床研修を実施するための環境を整備しています。そのため最先端の医療機器を導入し、治験を実施しています。そのため医師だけでなく、診療介助に携わる看護師もまた最新情報に触れ、医療知識を深めていけます。

また前述の通り、民間病院では治療困難な症例や難病などの珍しい症例であっても、大学病院では受け入れています。そのことから、より個別性の高い看護を提供できる場を与えられています。

またこのとき、大学病院では民間病院のように「外科」「内科」といった大きな区分となっていることはありません。例えば、同じ外科でも「心臓血管外科」「頭頚部外科」「肝胆膵外科」、内科でも「腫瘍内科」「消化器肝臓内科」などと細かい区分となっていることが多いです。

そのため専門性の高い看護を極めていくことが可能です。

なお患者さんは全員急性期であるため、容態が安定すると民間病院へ転院していきます。そのため、他の民間病院の看護師であれば関わらなければならない「介護士のような仕事」がほとんどありません。看護に集中できるのが大学病院で働く看護師の特徴です。

採血・点滴は研修医が行うため、手技が疎くなるデメリット

ただ大学病院で知識はつくものの、採血や点滴を含めて「看護師として必要最低限の手技を付けられない」というデメリットがあります。これが大学病院で働く看護師の最大のデメリットではないかと思います。

つまり大学病院の看護師だと、採血が下手の状態のままというわけです。

民間病院では一般的に採血や点滴は看護師の仕事ですが、大学病院では看護師ではなく、医師が採血を行います。そのため、大学病院の看護師が採血や点滴を行うことは基本的にありません。

大学病院から他の病院やクリニックへ転職するとなると、看護経験はベテランでも、看護の基礎である点滴や採血技術を発揮できない事態が起こります。そのためキャリアを積んできた大学病院出身の中途採用者なのに、他の看護師から「採血すらできない。使えない看護師だ」と思われるケースが発生します。

基礎的な看護手技ができなければ、その後に転職しても即戦力になれず、苦労してしまいます。

患者さんと近い距離で関わりたい方や、採血などの看護技術を身につけておきたい方は、大学病院よりも民間病院の看護のほうが向いているといえます。反対に、先進の医療・看護について学びたい方や専門性を深めていきたい方であれば、大学病院の看護師が向いていることになります。

時間外勤務(残業)・休日出勤が多いのは覚悟するべき

他には残業や休日出勤を含め、時間外労働が多くなって激務なのは理解しましょう。大学病院では患者さん全員が急性期であるため、容態が変化しやすく病棟は非常に多忙です。

なかには「3交代であるにも関わらず深夜勤で午前0時に出勤すると、日勤・準夜勤の看護師全員がまだ残っていて、誰も交代していなかった」というほどの忙しさの日もあります。

それに加えて大学病院で勤務する看護師だと一般的な勤務に加えて、勉強会や研修会、看護研究などにも参加しなくてはなりません。そのためプライベートの時間が少なく、体力的にも精神的にもきついと感じる場合が多いです。

民間病院であれば、勉強会や研修会は自由参加であるケースが多いのですが、大学病院の場合は暗黙の了解で強制参加の場合が多いです。大学病院は学ぶ意欲の高い看護師が集まっているため、このような勉強会や研修会に参加しなければ、他の看護師に後れを取っているような錯覚に陥りやすくなります。

また大学病院では夜勤明けや休日でも勉強会や研修が頻繁に行われることから、それらに参加しなければならないこともあります。もちろん、こうした勉強会に参加しても時間外手当はつきません。これをきついと感じるため、大学病院の看護師は結婚や妊娠などを機に退職する人が多いです。

大学病院と民間病院の給与・年収の差はどれくらい?

そうしたとき、大学病院と民間病院では看護師に収入の差はあるのでしょうか。これについて、大学病院も民間病院も給与や待遇に大きな差はありません。平均年収はどちらも約480万円前後となっています。

ただ東京や大阪、名古屋、福岡などの都市部では物価が高く、それに合わせて大学病院・民間病院は地方の医療機関よりも高い給与水準である場合が多いです。このとき都市部だと出されるのが地域手当であり、各地域の生活水準に合わせて支給される手当となります。

以下は、地域手当が付与されている九州大学病院の看護師求人の給与です。

このように、基本給の10%が地域手当として出されます。

それに対して、次に紹介するのが「地域手当が付与されていない愛媛大学医学部付属病院の看護師募集要項」になります。

各種手当はあるものの、このように地域手当はつきません。

そうしたとき、文部科学省が公開している国立大学職員の給与からも分かりますが、上記の九州大学では平均年収が519万円、愛媛大学では427万円と差が出てきてしまいます。大学病院でも民間病院でも、住む場所によって給料は大きく違ってきます。

これに対して私立大学病院ではどうでしょうか。例えば、慶応大学病院の看護師募集要項の給与欄は以下の通りです。

慶応大学病院は私立病院の中でも看護師の年収が高いことで有名です。ほかにも探せば、このような高待遇の私立大学病院の看護師求人が存在します

私立大学付属病院がいいのか国立大学付属病院がいいのかは、大学病院によって異なります。初任給が高いからといって昇給率まで高いとは限らないため、あなたが学びたいことを踏まえて総合的に判断するようにしましょう。

福利厚生は大学病院のほうが充実

なお福利厚生については、民間病院よりも大学病院のほうが充実しているケースが多いです。福利厚生には家賃の補助、寮・社宅、職員のための食堂、託児所、保養所、資格取得支援制度などが含まれます。

福利厚生については、希望する大学病院サイトの看護師募集要項の欄を「規模が同程度の民間病院」と比較してみるといいでしょう。例えば、以下は近畿大学病院の看護師寮の内容です。

3LDKという広さですが、寮費は月35,000円です。非常に安い金額にてこうした住居に住めるため、自由に使えるお金という意味では非常に優れています。

他には民間病院だと、資格支援取得に積極的でない医療機関があります。ただ大学病院は教育機関でもあることから、やる気さえあれば看護に必要なさまざまな資格を取得できるようサポート体制が整っています。

ワークライフバランスという意味では、時間外労働や勉強会の多い大学病院のため、プライベートの時間を取るのは難しいのが実情です。ただ有給休暇や時間外労働以外の項目については、大学病院だと福利厚生が充実しやすいというわけです。

採用のハードルは高く、常時募集ではない

これらの現状を理解したうえで大学病院へ転職しますが、一般的には中途採用で大学病院への転職を目指す看護師は少ないです。残業代なしにて多くの勉強会へ出席する必要があり、知識は付きますが採血できない看護師として成長することになるからです。

また病院やクリニック、介護施設のように常時募集しているとは限らず、「4月1日から一括で正式採用となる」などのケースが非常に多いです。

そのためには事前の採用試験を受ける必要があり、このときは20代前半の若い看護師とまったく同じ試験を受けなければいけません。看護師では経験の有無に関わらず、大学病院のような教育機関では年齢が若い人ほど有利です。

つまり新卒ではない時点で中途採用は不利であり、さらには働きながら採用試験を受け、そのための対策を講じなければいけません。そうした中でも、看護師が「非常に面倒」と感じるものに小論文があります。

中途採用でも大学病院は小論文が必要

大学病院の採用試験では小論文を課している場合がよくあります。そのため新卒に限らず、中途採用で大学病院へ挑戦する看護師も小論文対策をしなければいけません。

例えば以下は、東京女子医科大学にて看護師に課された小論文テーマです。

こうしたテーマについて、あなたの考えを論じる必要があります。何も対策をせずに臨むと、当然ながら優れた小論文を書くことはできません。

中途採用という時点で大学病院への転職は不利になりますが、さらには小論文できちんとした内容を記載できなければ、採用試験で落ちるのは当然だといえます。民間病院やクリニック、施設などへの転職と異なり、大学病院への転職は制約が多いだけでなく、こうした面倒な小論文への対策も必要です。

履歴書や面接での志望動機・自己PR

これに加えて、履歴書や面接などで志望動機・自己PRを記さなければいけません。また大学病院の場合、履歴書のフォーマットが既に決められているケースが多く、詳細な志望動機や自己PRを記載する必要があります。

例えば、以下は東海大学医学部付属病院での履歴書フォーマットの一部です。

履歴書とはいっても、文房具屋に売られている一般的な履歴書を利用するわけではありません。このように書くべきことが非常に多く、履歴書の内容を考えるだけでも非常に多くの日数を取られるようになります。

また大学病院は複数の病院を保有していることがよくあり、「どの病院を希望するのか」「希望する科はどれか」などについても理由を含めて記すことになります。

そのため履歴書の作成は一般的な中途採用と比べて非常に大変ですが、志望動機例文を挙げると例えば以下のようになります。

治療が難しい難病患者様の看護を極めたいと考え、貴院を志望しました。民間病院の整形外科病棟で勤務していましたが、脊髄神経の病変や腫瘍などの患者様に遭遇したとき対処に苦労しました。ただ熱心な看護をすると患者様や家族から喜ばれ、大きなやりがいを感じることができました。

そこで、より高度な医療を学びたいと考えはじめた次第ですが、貴院は〇〇固定術や△△術など世界的にも著名であり、〇〇という難しい手術でも優れた成績を残しています。そうした最先端の現場にて、看護技術を磨いていきたいと考えています。

大学病院への志望動機については、過去の研究例や大学の強みなどが公式サイトに限らず、あらゆる場所で公表されているため、非常に作成しやすいといえます。そこでこれまでの経験をもとにして、例文のように「その大学病院でしか通用しない志望動機」を作成するようにしましょう。

また履歴書への記載内容をもとにして、面接では同じように志望動機を聞かれます、また自己PRもしなければいけません。そこで事前に中途採用として転職希望の大学病院について調べ上げ、その病院の特徴を踏まえながら面接で受け答えをするといいです。

学ぶ意欲のある看護師が大学病院を希望する

研究機関でもある大学病院にて最新の知識を取り入れ、先進医療を学びたい方は大学病院への転職が向いているといえます。学んでいきたいとする向上心をもっていれば、仕事にやりがいを感じながら取り組むことが可能です。

反対にプライベートを大切にしたいのであれば、民間病院のほうが優れています。また採血や点滴など、一般的な看護技術を含めて身に付けたい人だと大学病院は向いていません。

一般的な病院とは異なり、大学病院はかなり特殊な看護師として働くことになります。さらには選考も常時募集ではなく、小論文があるなど面倒です。通常では遭遇しない疾患の患者さんをケアし、先端技術や知識を身に付けられるのは優れていますが、メリットだけでなくこれらのデメリットも事前に理解しましょう。

ただ大変な分、目標をもって仕事に励めるのが大学病院の看護師のメリットです。こうしたあなたの目標を達成できる大学病院はどこなのか情報収集し、満足いく働き方を見つけ出すようにしましょう。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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