看護師の職場は「残業するのが当たり前」という職場環境のところが多く、終業時間になってもすぐに帰れないのが一般的です。特に大学病院や総合病院などで規模が大きいと、残業どころか勉強会などその他のことまで実施しなければいけません。

看護師の過重労働は社会的に非常に深刻な問題であり、毎年数名の看護師が過労死認定を受けているのが現状です。それでも人手不足のため労働環境の改善はなかなか見込めません。

そのため「残業なし」「定時退社可能」な求人を選んで転職活動を行うのは、プライベートを大切にするだけでなく、自分自身の身を守るために重要な選択だといえます。

そこで求人票に記載されている「残業なし求人の正確な読み方」「残業の少ない科や多い科」「定時退社可能な看護師求人」など、転職のときに知っておきたい残業の考え方について解説していきます。

求人票の「残業なし」「定時退社」の正しい読み方

看護師が転職をするとき、ほとんどの人が利用するサービスに転職サイトの活用があります。こうした転職エージェントの求人票を見れば、「残業少ない」「定時退社」などの文字を見かけることがよくあります。

それでは、求人票に「残業なし」「残業少なめ」などの記載があれば、言葉通り本当に定時で帰れるのでしょうか。例として、以下に挙げた神戸の総合病院の求人例を見てみましょう。

残業欄に記載してある「ほとんどありません」とは、いったいどのくらいの残業時間なのでしょうか。「残業なし」などとの記載のある求人には、もちろん言葉通りの優良な求人もあります。しかし実際に入職してみると、求人票に記載のある内容とは全く異なっている場合はよくあります。

特に看護師求人の場合、「残業なし」「定時上がり可能」の言葉をそのまま受け取ってしまうと、転職に失敗する恐れがあります。

例えば私が以前勤めていた眼科クリニックでは、求人票に「毎月の平均残業時間20時間前後」と掲載がありました。しかし実際に入職して働いてみると、「20時間前後の残業時間しか認めていない」だけでした。

つまり、「20時間を超えるような残業はサービス残業となり、給与は支払われない」という意味だったのです。このように悪質な職場になると「残業なし」という提示は、単に残業をカウントしない職場である可能性があるのです。

看護師でサービス残業が非常に多い

求人票に載っている条件だけで転職すると、高確率で失敗するといわれています。これは、残業も大きく関わっています。

また実際のところ、看護師は非常にサービス残業が多い職業でもあります。参考までに、以下のグラフを参照してください。

出典:看護職員労働実態調査

このグラフをみると、「賃金不払いの労働なし」とする看護の職場の割合は全体の31.1%となっています。つまり、約3分の2の職場では賃金不払いの労働(サービス残業)が発生しているという実態を表しています。

あなたが希望する求人は、本当に「サービス残業を強いていない」と言い切れるでしょうか。そのため中途採用募集に記載されていることに限らず、その実態を確かめなければいけません。

残業少ない看護師求人で定時上がりが真実か見分ける方法

それでは「残業少ない」「定時退社」「定時上がり」の看護師求人の実態はどのように見分けるといいのでしょうか。

最も確実な方法としては、希望する病院やクリニックの看護師に直接話を聞くことがあげられます。働いている看護師から現場の声を聞けば、「残業の有無」「サービス残業の実態」などが分かります。

看護師転職をするとき、必ず面接を受けることになります。このとき、面接の前または後で病院見学・施設見学をセッティングするようにしましょう。医療機関の内側を見ることで、ようやく分かることは多いからです。

こうした病院見学のとき、同時に現場で働く看護師へ「ぶっちゃけどうなのか」を尋ねるといいです。残業の少ない職場かどうかは、そこで働く看護師へ数人ヒアリングすれば、求人票に記載されていることが真実かどうか容易に判断できます。

給料や勤務時間などについては、事前の交渉で何とか対応できます。ただその詳細な実態は把握できないため、現場の看護師から聞くようにしましょう。

残業の少ない科と多い科を把握する

ただ、看護師では診療科によって忙しさが異なるのが一般的です。そうしたときどのような科を選べば、残業の少ない科となるのでしょうか。残業の少ない科と多い科を分けてみます。

・残業の少ない科・定時で帰れる可能性の高い病棟

まずは残業の少ない科について述べていきます。残業の少ない科というのは、緊急入院や急変の少ないや慢性期病棟などといえます。例えば、以下のような科です。

  • 精神科・心療内科
  • 泌尿器科
  • 耳鼻科
  • 慢性期病棟
  • 透析科
  • リハビリテーション科
  • 健診・検診センター
  • 訪問看護ステーション
  • 高齢者施設(デイサービス、特養など)

上記の科であれば、急変の心配をするケースは少なくて済みます。病棟勤務であっても、看護記録は毎日ほとんど変わらない内容となるので、看護ケア以外の仕事を行う負担は少なくて済むのが特徴です。

また完全予約制の健診・検診センター、訪問看護ステーション、透析科などであれば、突発的な仕事はあまり入ってこないため残業は少ない傾向にあります。

・残業の多い科・定時で帰れない可能性の高い病棟

反対に残業の多い科では、例えば以下のような科があります。

  • 救急外来
  • ICU・CCU・NICU
  • 手術室
  • 脳神経外科
  • 循環器科
  • 小児科
  • そのほかの急性期病棟

残業の多い科というのは、やはり急性期で急変や緊急入院などの多い科だとされています。総合病院や大学病院などであると3次救急に対応しており、24時間体制で急変の受け入れを実施しているため、常に忙しいことが予測されます。

例えば、以下は東京にある循環器病院のオペ室求人です。

ここには「最も忙しい部署での勤務」とあり、緊急手術を含めて多くの残業があると容易に推測できます。

また、忙しい病棟のほうが学ばなければならない知識や身につけておきたい看護技術が多いため、勉強会や研修会が頻繁に行われ、サービス残業が増える傾向にあります。

夜勤なし・日勤のみで定時退社が可能な中途採用募集を選ぶ

そうしたとき一般的に「残業なし」「定時退社」といえば、正社員だとクリニックの求人を思い浮かべやすいです。定時退社を望む人だと、同時に夜勤なし・日勤のみの働き方を考える人が多くなりますが、定時退社に加えて日勤のみの働き方をクリニックで実現しようとするのです。

そうしたときこれらの求人を選ぶことで、定時で帰ることは可能なのでしょうか。

確かにクリニックは急患がいるわけではなく、残業時間が少ないように感じるかもしれません。求人票にもクリニックの場合、「残業少なめ」「定時退社可能」「定時上がり」などの記載のあるケースが多いです。

しかし求人票で「残業が少なめ」とアピールしていても、言葉通りとは限りません。私が以前勤めていた眼科クリニックでは患者数が多く、午前中だけでも120人くらい来院することがありました。その結果、毎日残業が発生していました。

さらには診療時間後の残業だけでなく、診察時間前後でもサービス勤務の掃除がありました。この眼科クリニックでの私の残業時間をざっと計算すると毎月約68時間ほどでしたが、毎月の給与明細に記載される残業時間は先に述べた通り毎月20時間ほどでした。

以下が、実際に私がもらっていた眼科クリニックの給与明細の一部です。

この明細では残業時間が22時間になっていますが、いずれにしても毎月20時間くらいしか残業代がつかなかったわけです。

また、この眼科クリニックで残業時間として加算され始めるのは、終業時間終了後、きっかり1時間経ってからでした。例えば終業時間は18:30でしたが、19:29の時点でタイムカードを押すと「残業ではない」とみなされるのです。

職場環境が悪かったので、私はこのクリニックを半年ほどで退職してしまいました。残業だけが退職理由ではないですが、職場環境に不満が大きかったのは確かです。

クリニックは1日の患者数が重要なチェック項目

そこで病院見学・施設見学で看護師にヒアリングするのは当然として、その他の項目も注意深くチェックしましょう。

患者数が多い職場だと、内科でも皮膚科でもあらゆる科で残業が発生するのは当然だといえます。一方で患者数が少なければ、残業の少ない職場だと容易に想像できます。例えば、以下のような職場です。

患者数は1日40人ほどであり、非常にゆったりと夜勤なしで勤務できることが分かります。こうした職場であれば、仕事が溜まることはなく日勤のみで残業が少ないと理解できます。実際のところ、クリニックでの残業は患者数によって左右されるため、非常に重要な項目だといえます。

もちろん病院や施設など、1日の患者数では残業時間を推測できない医療機関も存在します。この場合、院内の様子や看護師へのヒアリングが非常に重要な要素になります。

事前に「残業できない」「定時に帰りたい」ことを伝えるべき

なお、あなたが「残業ができない」「定時に帰りたい」となると、いくら残業なしと掲載している求人でも、一部の雇用先からは敬遠される可能性があります。しかし、残業ができないという要望や理由を求人先に述べておかなければ、働き始めて困る事態に陥るのはあなたです。

それでは、残業ができない正当な理由がある場合、履歴書や面接ではどのように伝えるといいのでしょうか。その場合には履歴書の備考欄を利用するようにしましょう。

この欄には、「残業なしという条件が満たされなければ、働き始めるのは難しい」というあなたの都合や要望を書きます。

もちろん「子供が小さい」「親の介護」など、誰もが納得する正当な理由が必要です。「子供の塾の送り迎え」なども、育児に協力的な職場であれば認めてもらえるところがあります。

もちろん20~30代の独身看護師で子供がいないにも関わらず、「定時に帰りたい」という希望を漠然と伝えると、「仕事に対して意欲が感じられない」などと思われる可能性が高くなります。その場合、「資格取得のために学校に通っている」など何かしらの理由を述べるようにしましょう。

また、あなたの事情を伝えると同時に、「なぜ残業なしで扱ってほしいのか」などの詳細な理由についても書き加えておくといいです。そうすれば、採用側はあなたの家庭状況などを把握できるため、働き方を考慮してくれる可能性が高まります。

例えば、備考欄に以下のように書くといいでしょう。

私はシングルマザーで子供が小さい(4歳と5歳)ため、保育園に17時半には迎えに行かなければいけません。近隣に頼る両親がおらず、延長保育が17時半までとなっています。

ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、下の子供が小学生になるまでは17時で帰宅させていただければと思います。なお子供が病気になった場合、近隣の病児保育施設に預けることができます。皆さまのご迷惑にならないよう配慮の上、仕事をしていきたいと考えております。

残業ができない事情を書くと、求人先によっては採用時に不利になる場合があります。しかし、条件が合わないと現実的に仕事できないようであれば、あらかじめ知らせておくのがマナーです。

ただ、上記のように自分でも職場に迷惑をかけないための対策を考えている旨を伝えておくと、文面が好印象になるのでおすすめです。

残業なし・定時退社可能の求人への転職で成功させるコツ

残業がない職場とある職場では、労働環境が全く異なるため、働きやすさだけでなくプライベートにも大きな影響を与えることになります。

ただ「求人票に掲載されている内容と実際の職場環境では、異なるケースが多い」ことを理解しましょう。そこで残業が少なく、夜勤なしの職場への転職を成功させるには、事前に希望する求人について詳しく情報収集しなければいけません。

「忙しくない科や職場を選ぶ」「患者数の少ないクリニックを選択する」「病院見学で実情をヒアリングする」など、定時退社を実現するために確認するべきポイントはいくつもあります。

中途採用募集の内容を眺めるだけでは、なかなか見えてこないのが毎日の残業時間です。そこで日勤勤務に加えて残業の少ない職場で働きたい場合、実際の求人の中身がどうなっているのかに着目したうえで転職するようにしましょう。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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