新聞やテレビなど多くのメディアで「看護師の医療事故やミス」の報道を目にする機会があります。自分と同じ看護師が訴えられるニュースを見て、果たして「自分は絶対に訴えられない」と言い切ることができるでしょうか。

誰しも意図的に医療事故やミスを犯すわけではありません。ただ、ヒヤリハットやインシデントが起こったあとで「あのとき、本来だと何度も確認しなければならなかった」と反省することは多々あります。

しかし高度化・複雑化する医療現場において看護師が行う業務は拡大し、医療事故を起こしてしまうリスクも増大しつつあります。そのため、どんなに確認や注意を行なっていても偶然に偶然が重なり、その結果起こるべくして起こってしまうヒヤリハットやインシデント、さらには医療事故を回避することはできません

そうして医療事故が起こった場合、一昔前だと医師や病院が患者に訴えられることが多かったのですが、いまでは医師ではなく看護師自身が賠償責任を問われるケースが増えてきました。そうしたとき重要なのが看護職賠償責任保険です。これについて「どういう内容なのか」「転職先の病院で加入されるのか」を含め、内容を解説していきます。

裁判を含め、医療過誤で看護師は訴えられる存在

医師だと医療ミスで訴えられることがよくあります。ただこれは医師に限らず、看護師でも同様だといえます。実際、過去には看護師による重大なインシデントによって患者さんに大きな影響を与えてしまい、医療事故として裁判になったケースがいくつもあります。

例えば、以下は看護師の処置ミスによって患者さんが植物状態に陥り、高額な賠償命令が下された裁判です。

こうした事例は全国で非常にたくさんあり、すべての看護師において「ミスによって患者さんが重篤な状態に陥り、結果として賠償責任を背負うことになった」と判断される可能性があるといえます。

看護職賠償責任保険とは、医療事故に備える保険

そうしたとき看護職賠償責任保険とは看護師や准看護師、保健師、助産師が医療事故を起こし、他者に損害を与えてしまって訴えられた場合、賠償責任を負担してくれる保険のことをいいます。

ただ看護職賠償責任保険には種類がありますし、いくつかの保険会社から販売されています。そのため、中身がどのようになっているのかを事前に確認しておかなければいけません。

・看護職賠償責任保険はどういうときに補償されるのか

そうしたとき、看護職賠償責任保険の中身がどうなっているのか理解するのは必須です。これについては、事例と共に紹介すると以下のようになります。

  • 対人賠償:指示と異なる薬剤を誤投与し、患者に身体的疾患が起こった
  • 対物賠償:ベッドに移乗中、テーブルにあった高額な時計を落として破損してしまった
  • 人格権侵害:オペ前の説明で不適切な用語を使用し、患者さんの名誉を傷つけた

このように、賠償には「対人賠償」「対物賠償」「人格権侵害」といった種類があります。これらすべて看護師にも賠償責任が発生するとなると、とても他人事とはいえません。いつ、何どき、賠償金を請求されるか分からないのです。

その中でも対人賠償がメインになり、薬の誤投与に限らず「誤って患者さんを転倒させ、骨折させてしまった」「不注意で食事が器官に入り、誤嚥性肺炎を起こした」など、さまざまな場面が想定されます。

一見すると「病院の責任が追及されそうな内容」も中にはあります。ただ、医療事故が発生した場合、安全な医療・看護を行わなかったことに対して、まず医師や看護師など個人が「行為者本人の責任」として追及されます。そしてその次に病院や院長、看護部長が使用者責任を問われることになります。

「誰がこの医療事故の張本人なのか」というのは訴える被害者が決めます。そのため医師でなく、患者さんの近くにいる看護師が訴えられる可能性は大きいといえます。そのため、看護職賠償責任保険が重要になります。

ちなみに事故ではなく、故意にした場合は看護職賠償責任保険であっても賠償金の支払いは行われず、行政処分の対象となります。

日本看護協会や東京海上日動火災保険など商品の比較

そうしたとき、看護職賠償責任保険へ加入するにしても、一種類だけではありません。いくつか種類があります。

その中でも看護職賠償責任保険を取り扱っているのは日本看護協会と東京海上日動火災保険の2つになります。日本看護協会と東京海上日動火災保険では、掛け金や補償金額、補償内容が異なります。以下に違いを示します。

日本看護協会東京海上日動火災保険
対人補償1事故5,000万円1事故5,000万円
対物補償1事故100万円1事故50万円
人格権侵害1事故5,000万円1事故5,000万円
初期対応費用1事故500万円1事故250万円
掛け金12ヵ月で2,650円12ヵ月で2,980円

日本看護協会のほうが年間掛け金は安いため、こちらを希望される方はそれなりに多いです。ただ日本看護協会に入会し、所属する都道府県看護協会にも年会費を支払う必要があるため、それらの条件を満たしているかどうかを確認しましょう。

なお東京海上日動火災保険の場合、よりグレードの高い看護職賠償責任保険も取り扱っています。そこで年間の掛け金なども考えながら、どちらに加入するべきなのか考えるといいです。

医療事故を起こしてしまったときの対処法

なお万が一、医療事故が発生して患者さんから訴えられてしまった場合はどう対処すればいいのでしょうか。また、どのように看護職賠償責任保険を利用するのでしょうか。

これについては、契約した保険の代理店へ連絡することになります。契約をした代理店や保険会社によって多少の違いはありますが、看護職賠償責任保険制度にて保険会社へ連絡したとき、「医療事故発生から賠償金の支払いまで」の大まかな流れは以下のようになります。

① 医療事故の疑い医療の専門知識と経験をもつ人が相談に乗る
② 医療過誤と確定解決までのプロセスを対応
③ 被害者が賠償請求を起こした顧問弁護士と連携して支援
④ 事故審査委員会開催弁護士・有識者・日本看護協会の代表などで開催される
⑤ 賠償請求の内容をチェック被害者の損害の程度を審査する
⑥ 賠償金の支払いお金を補償する

保険会社は看護職賠償責任保険だけでなく、自動車保険や傷害保険なども扱っており、医療業界の保険だけに特化しているわけではありません。そのため、④の事故審査委員会が開催され、看護師の責任について審査が行われます。

上司に速やかに相談するのが基本

そうしたとき、看護業務をしている際に発生した医療事故である場合、看護師一人の責任ということはなく、その看護師の上司や使用者(院長)も責任を問われるケースが多いです。

そのため、患者さんに対してなんらかの医療事故を起こしてしまったら、速やかに上司に相談をすることが何よりも大切です。このとき必要であれば、記憶が新しいうちに必要書類を作成し、上司に提出しましょう。

上司に相談するのは勇気の必要なことですが、早めに報告しなかったことで、後になって第三者や患者さんから医療事故の件が上司の耳に入った場合、あなたはさらに信頼を失うことになります。医療事故を起こして自己嫌悪に陥って辛いときに、さらに精神的な苦痛拡大の恐れが出るのです。

そこで素早く相談しつつインシデントへ対処し、看護職賠償責任保険を利用するために保険会社へ連絡するといいです。

勤務中や転職先の医療機関負担での加入は必須

しかしこうした看護職賠償責任保険について、看護師が自費にてお金を出すのは微妙です。そうではなく、通常は看護師を採用している医療機関側が費用負担するのが当然だといえます。

もちろん強制加入の保険ではなく、看護職賠償責任保険は任意加入となります。そのため全員が加入しているわけではなく、医療機関が「福利厚生の一環として看護職員に看護職賠償責任保険への加入費用を負担している」のが現状です。

ただ職員のことを考えている医療機関であれば、こうした看護職賠償責任保険への加入費用を負担してくれます。そこで、いま勤務中の病院で看護職賠償責任保険に入っているか確認しましょう。また転職を考えているのであれば、看護職賠償責任保険へ加入できるかどうか聞いておくといいです。

例えば、以下の介護付き有料老人ホームから出されている求人だと、看護職賠償責任保険へ自己負担なしで加入できるようになっています。

この求人票の場合、看護職賠償責任保険について記載されているので分かりやすいです。ただ、一般的な中途採用募集だと看護職賠償責任保険について求人票で触れていないことが多いため、転職などのときは事前に保険加入できるかどうか聞いておくのです。

万が一の事態を防ぐのが看護職賠償責任保険です。年会費はそこまで高くないものの、あなた自身のお金で加入するのは微妙なため、勤務先または転職先できちんと保険加入によるインシデント対策が行われているかどうかを確認しましょう。

もちろん正社員に限らず、非常勤(パート・アルバイト)や派遣看護師であっても状況は同じのため、自分の身を守るためにも看護職賠償責任保険の確認は必須です。

重大な医療事故であなたを守る看護職賠償責任保険

医療従事者である以上、どのような人であっても重大な医療事故を招く危険性があります。もちろん医師に限らず、患者さんと近い存在の看護師についても訴えられ、裁判を起こされて多額の賠償責任を背負うことがあるのです。

事実、過去には看護師によるインシデントが重大な医療事故につながり、患者さんの死亡や植物状態につながったケースがあります。このときは裁判を起こされ、高額な支払い命令を出されたことも多いです。

そうしたときに守ってくれるのが看護職賠償責任保険です。看護職賠償責任保険へ加入しておくだけで、万が一の事態に陥っても金銭面については補償してくれます。

ただ、医療機関によって看護職賠償責任保険への対応が異なります。これに自己負担で個人的に加入するのは微妙なので、勤務先または転職先にて、医療機関負担で加入できるかどうかを必ず聞くようにしましょう。そうすることで、医療事故が起こったときに保険があなたを守ってくれます。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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