専門看護師とは「日本看護協会の専門看護師認定審査に合格した、特定の専門看護分野においてハイレベルな看護実践能力を有すると認められた看護師」のことです。
「いつかは専門看護師の資格を取得してみたい」という目標をもって、日々の看護業務に取り組んでいる看護師も少なくないのではないでしょうか。
専門看護師として認定される専門看護分野はいくつもあり、「それぞれの場において高い技術力を発揮する多くの役割を担う」ことを目的に活動しています。
ただ実際のところ、これだけでは専門看護師の役割をイメージしづらいと思います。また取得方法も理解しにくく、その後にどう役立つのかも分かりません。そこで専門看護師の資格取得方法とその役割・活用方法について、事例を挙げながら解説していきます。
もくじ
専門看護師の資格を取得するには
まずは専門看護師の資格を取得する方法について述べていきます。専門看護師は質の高い看護ケアの提供を行なう能力が必要であるため、深い知識と技術を修得することが必要です。認定看護師に比べて非常に難易度が高いのが特徴です。
年に一回、日本看護協会が専門看護師の資格認定試験を実施しています。その資格認定試験を受けるためには下記の条件があります。
- 日本の看護師免許を所有している
- 実務研修が通算5年以上ある(うち3年以上は専門看護分野の実務経験)
- 看護系の大学院を修了する(期間は2年)
つまり専門看護師になるためには、看護系の大学院に通算2年間は通うことが必須条件となります。「仕事をしながら大学院に通う」というのは、課題の量などからしても両立は難しく、事実上2年間は勉強に専念しなければなりません。
もちろんこのときは専門技術の習得だけでなく、卒業に向けての論文作成も必要となるため、以下のような実験・研究を続ける必要があります。
そのため、仕事時間をセーブしてでも学生として勉強時間に充てるくらいの覚悟と努力が必要となります。これらすべての条件を満たし、年に1回の専門看護師の資格認定試験を受けます。この試験は筆記試験と面接があります。
このような難しい試験を受けて合格することで、ようやく専門看護師としての認定証が交付され、活躍の場を広げることが可能となります。
しかし苦労して取得したこの専門看護師の資格は、認定看護師の資格と同様、一生ものの資格ではありません。5年ごとに看護実績や教育活動、社会活動、研究成果などをまとめたものを提出し、更新審査を受ける必要があります。
2年間の学費や生活費などの準備が必要
仕事をしながら専門看護師の資格を取得することは困難ですので、大学院に支払う2年間の学費や生活費の準備が必要となります。
例えば私のいとこは助産師で、専門看護師の資格を取得しています。自分が助産師として働きながらも死産した経験から「自分と同じ経験をした母親の気持ちに寄り添いたい」という想いをもつようになりました。そこで専門看護師を目指すために一念発起し、母性看護の分野で大学院に通いました。
しかし専門看護師の道は困難を極めました。まずは大学院に合格するための勉強が必要です。寝る時間も惜しんで朝方まで勉強したそうです。さらに両親から大学院に通う学費を貸してもらうことにしました。後から、月々返済することにしたのです。
また当初、大学院に通うのは2年の予定だったのですが、1年目に待望の妊娠が判明し、出産・育児のために1年休学しました。育児が落ち着いてから復学を果たしたため、予定より長い3年間の学生生活となったわけです。
この3年間は、自分が看護師をしていた給与よりも少ない夫の給料だけで生活をしなければなりませんでした。さらに出産・育児費用や休学費用、その間の生活費など予定外のお金も必要となり、400万円以上両親に借金をしてしまったそうです。
専門看護師を目指したため、経済的にはとても困った状況が続いたと話していました。ただ専門看護師を考える場合、こうした困難があることは事前に認識しましょう。
専門看護師の資格取得に積極的な病院がある
しかしながら、いくら本人のやる気や実力があって「専門看護師になろう」と思いたっても、2年間も大学院に通うとなると経済的に困難な状況になってしまうことが容易に想像できます。これらのことから、やる気も実力もあるのに専門看護師を諦める看護師が多くいます。
しかしなかには、専門看護師の資格取得をサポートしてくれる病院もあります。
専門看護師の資格取得に積極的な病院の中には、2年間という長い就学期間にもかかわらず、研修や勉強時間を確保するための休暇をもらえたり、大学院に通学している間の固定給を支払ってくれたりする場合があります。さらには、大学院での必要な経費も払ってくれるケースもあります。
例えば、以下は東京にある二次救急の病院から出されている求人です。
このように専門看護師について支援制度があります。もちろんすべての看護師が対象ではないですし、支援の詳細について聞かなければいけませんが、資格取得を支援してくれるので非常にありがたいといえます。
先ほどの私のいとこの場合、このようなサポート体制の整っていない病院に勤めていたため、夫や両親の協力でどうにか専門看護師の資格を取得できました。しかし、専門看護師となった4年目のいまも両親への借金の返済が続いています。
専門看護師資格を優遇してくれる病院への転職は必須
こうした実情があるため、あなたの勤めている病院が専門看護師の資格取得に積極的でないのであれば、専門看護師の育成に熱心な病院に転職することを視野にいれておくほうが、将来的に困らない状況になります。経済的に困窮しない対策をとっておくほうが得策なのです。
看護師として自分の専門性を高め、勉強する意欲が高いのはいいですが、お金の問題を切り離すことはできません。
そこで専門看護師の資格取得を目指すにしても、事前に転職することで、お金の問題を解決しましょう。
・専門性を高く評価し、資格取得の先輩がいるのは重要
そうしたとき、先ほど記した「専門看護師への支援制度を提示している病院」だと非常に分かりやすいですが、他にも「専門看護師を広く募集している医療機関」「何人もの専門看護師がいる病院」の中途採用求人も狙い目です。
これらの医療機関だと、専門看護師の重要性を理解しているといえます。また専門看護師の先輩がいるのであれば、「どのようにして資格取得したのか」「いまの病院でどう活かされているのか」「支援制度はあるのか」を聞くことができます。
例えば以下の埼玉にある病院では、専門看護師を広く募集しています。
この求人では「認定看護師の資格があれば応募可能」となっており、そうした人なら問題なく求人に申し込み可能です。そこで事前に専門看護師資格の支援制度やその後の活躍を聞き出し、内容に納得した後に転職すると効果的です。
頑張って探せば、働きながら専門看護師の資格取得を支援してくれる制度が整っているケースがあります。これであれば、お金の問題を解決しやすくなります。もちろんかなり特殊な求人にはなりますが、転職サイトを通じて探せばそうした病院の中途採用が見つかります。
専門看護師の資格取得での待遇や収入の変化
それでは実際のところ、専門看護師の資格取得をしたとき、その後の待遇や収入に変化はみられるのでしょうか。日本看護協会から出されている「専門看護師新規認定者の状況」の中に具体的なデータがあります。
これによると、以下のようになっています。
資格取得後、職位・給与の変化なし | 71% |
専門看護師として資格手当てがつく | 15% |
職位が上がり、それに伴う昇給がある | 4% |
職位は変化しないが昇給する | 4% |
職位のみ上がる | 2% |
このデータによると、70%以上の専門看護師は「資格取得後においても職位や給与など何も変わらない」となっています。つまり専門看護師の資格は「苦労したわりに待遇や収入に変化がなく、報われない資格」ともいえます。
参考までに前述した私のいとこは、専門看護師を取得し復職したとたん、任される仕事が増えたそうです。勤務時間外に勉強会を開催したり、院外活動(学会の活動や看護研究についての作業)を実施したりするなど、大変忙しくなったといっていました。
待遇面では役職が主任となったため、役職手当として月に3000円ほど給料がアップしたようです。しかし院外活動などの仕事が増えたぶん、夜勤は少なくなり、トータルとして給与は大幅に下がりました。
専門看護師の資格を取得しても、待遇面で昇給や昇進につながらないのは、専門看護師の必要性を理解している病院が少ないからです。
認定看護師や専門看護師は看護師免許のような国家資格ではなく、日本看護協会が独自に制定した資格制度です。
そのため病院側からしたら「看護師側が勝手につくった資格によってレベルアップをしたため、待遇を良くしてほしい」といわれても困ります。「専門看護師の資格がどのくらい病院にとって役立つ資格か」を病院側が分かっていなければ、待遇が良くなることはありません。
こうした理由から、あなたが勤務する病院が「専門看護師を必要としている病院なのか?」が非常に重要になるといえるのです。
あなたの取得した専門看護師の専門分野について、いま勤務している病院で需要があり、専門看護師の力を存分に発揮できるのであれば、昇進や昇給の可能性は高くなります。稀な例ですが、なかには専門看護師の資格を取得したことで昇進し、月収で10万以上昇給した専門看護師もいます。
病院によって昇給や昇進に大きな差があるのが、いまの専門看護師資格の現状といってもいいでしょう。また先に述べた通り、資格取得後はむしろ忙しくなるケースが多いため、勉強熱心で専門性を高めたい人のみ向いているといえます。
なお、「それでも専門看護師になりたい」という強い意志があるのであれば、専門看護師を活かせる環境とそれなりの待遇がある病院に勤めるのは必須です。待遇が悪ければモチベーションが下がるため、支援制度やその後の昇給を含めて、内容の優れる病院へ事前に転職しておくのは当然だといえます。
専門看護師の具体的な役割とは
次に専門看護師の具体的な役割について事例をもとにお話します。専門看護師の仕事の役割としては6つあります。以下の通りです。
- 高度な看護を実践する役割を担っている(実践)
- 患者さんが円滑に療養生活を送れるよう、コンサルテーションを行う(相談)
- サービスをコーディネートする(調整)
- 患者さんが前向きに病気をとらえられるように促す(倫理調整)
- 看護職への勉強会を主催する(教育)
- 知識技術を高めるための研究に携わり、多様な仕事に関わる(研究)
「これら6つの役割は専門看護師でなくても行なえるのではないか」と思う看護師もいるでしょう。しかし、6つの役割を大学院で専門的に勉強し、研究することで、患者さんをスムーズに誘導できるようになります。
そこで事例を挙げますが、これらから専門看護師の役割について実際に知ってもらいたいと思います。
事例から検証する専門看護師の役割
ここではがん看護専門看護師の資格を取得して、訪問看護ステーションに勤務しているY看護師が実際に実施している専門看護師の仕事を取り上げ、6つの役割について具体的に解説していきます。
【事例:Aさん 40代男性 脳腫瘍】
Aさんは40代という若さで脳腫瘍を発症してから1年が経過していました。Aさんには妻と小学2年生の男の子がいます。日常生活は妻による全介助が必要でした。嚥下がうまく行えず誤嚥を繰り返し、肺炎になってしまうことが多々ありました。
Aさんは身体の動きが取れないため、何をするにも妻の介助が必要でした。そのため、奥さんだけの力では通院が難しくなり、訪問診療とY看護師が担当する訪問看護を受ける運びとなりました。
訪問看護を行う当初から、担当医師はAさんの生命予後を考慮して胃瘻の造設を勧めていました。しかし、AさんはY看護師に「胃瘻や点滴をしてまで長生きしたくない。自分が弱っていく姿を息子に見せたくない」と険しい表情で語りました。
そこでまずY看護師は、Aさん自身がどのような体験を経て、いまの考えに至っているのかを聞き出しました(実践・調整)。
Aさんはある日を境に、いままでしていた生活上のすべての行動を妻やヘルパーなど他者に頼らなければならないようになってしまった経緯から、自分のおかれている状況を受け入れられず、生きる希望を見失っているようでした。
そのことを踏まえ、Y看護師はAさんやAさんの家族の希望に添いながら(相談)、Aさんの自尊心を損なわせず、身体状況に合わせた「生活がしやすくなるヒント」を訪問のたびに1~2つ程度提供していきました(実践)。
またAさんには自尊心を回復させるようなアプローチを行い、Aさんの奥さんには介護の工夫を教えるとともに、予期悲嘆へのケアを通じてエンパワーメント(自分自身の力で問題を解決していく能力を身に付けること)されていくように支援を展開しました(実践)。
Y看護師が訪問するたびに、少しずつAさんはADL(日常生活動作)の回復がみられ、笑顔が増えていくようになりました。
Aさんは自暴自棄になっていた状況から、わずかに自分ができることを見つけだし、自立して生きる術を身に付けていくようになりました。そのことでAさんは前向きに人生をとらえるようになっていきました(倫理調整)。
そのような折、Y看護師はAさんに「もう少し時間があったら何をしたいか」と尋ねました。するとAさんは「息子に勉強を教えたい」と答えました。(相談)
Aさんはもともと小中学生の学習塾の講師をしていました。そこでY看護師は、Aさん親子にパソコンを使用して息子さんとコミュニケーションを取る方法を提案してみました(調整)。
このころになると、障がい者関連の制度の利用をかたくなに拒否していたAさんと奥さんの姿勢が軟化し、地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルな資源を活用できるまでになっていました(調整)。
・専門看護師で学んだことを現場で活かす
簡単なストーリーを記しましたが、専門看護師を取得するうえで学んだ知識は臨床現場で活かせます。単に看護をするだけでなく、患者さんとどう向き合うのかを考えながら実践できるのです。
取得は非常に難しい資格ですが、そうした資格取得を考えている看護師だからこそ、患者さんとどう向き合えばいいのか考えるきっかけになるのが専門看護師の資格だといえます。
専門看護師を目指すときは現実も一緒に考える
ここまでの内容が「実際のところ、専門看護師の資格はどうなのか?」の現状になります。専門看護師は専門的な仕事であり、資格取得はハードルがかなり高いです。反面、「大きく評価されるか」というと多くの医療機関で、あまり変わりはありません。
つまり待遇面での変化は期待しにくく、本当の意味で「いまよりも勉強を頑張り、看護技術を高めていきたい」と考えている人向けの資格になります。
ただいくら勉強への熱量があったとしても、お金や時間の問題を解決しないことには、現実的に専門看護師の資格取得は無理です。そこで専門看護師を優遇してくれて、さらには支援制度のある医療機関の求人へ事前に転職しておくのは必須です。
いまの職場がそのような恵まれた環境でない場合、金銭面の支援や資格取得後の優遇を保証してくれる医療機関へ変わらなければいけません。こうした中途採用の求人は少ないですが、転職サイトなど専門のエージェント会社を利用して根気強く探せば見つかるため、まずは求人を探すようにしましょう。
求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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