転職をするとき、どうしても目が向きがちになるのが給料です。ただ年収と同じくらい重要な要素が福利厚生だといえます。実際のところ、福利厚生が違えば実質的な手取り金額がまったく異なるようになるからです。

当然ながら、重要なのは年収額ではなく実際に手元に残るお金です。福利厚生は第二の給与と同じであり、どれだけ福利厚生が充実しているのかによって実質的な収入が大きく違ってきます。

また福利厚生はお金に直結するだけでなく、看護師として活躍するときの働きやすさにも直結します。分かりやすい例でいえば、育休制度なども福利厚生に含まれます。

そのため求人票になる給与額や勤務形態だけでなく、福利厚生にも着目したうえで看護師は転職活動を検討しなければいけません。そこで求人募集を見るとき、何に注意すればいいのか確認していきます。

法定福利では社会保険に入れる事業者にする

福利厚生は通常、医療機関側が自由に付与することができます。ただ、法律で決められた福利厚生も存在します。これを法定福利といいますが、中には法定福利が整備されていないケースもあります。そのため看護師が転職する場合、最初に確認するべきは法定福利になります。

国民健康保険(国保)や社会保険などの言葉を聞いたことがあると思います。これについては、社会保険に入るほうが圧倒的に有利です。

国民健康保険はすべて自己負担です。一方で社会保険は事業者側(医療機関や施設など)が費用を半分負担してくれます。また将来もらえる年金額は国民健康保険で月5万円ほどですが、社会保険(厚生年金)だと平均して月15万円であり、月に10万円もの差があります。

もちろん同じ社会保険でも、年収額によって将来の年金額は変動します。参考までに以下は私の親の年金です。

途中で退職し、パート・アルバイトなどをしていましたが、それでも年間で145万円(月12万円)ほどの年金です。常勤看護師に限らず、非常勤(パート・アルバイト)や派遣でも社会保険に入ることができるため、全員が加入するべきが社会保険です。

・クリニックだと社会保険でない可能性がある

ただ社会保険については「社員が5人以上でない事業主」だと加入義務がありません。つまり個人経営で社員数の少ないクリニックだと社会保険への加入義務がなく、正社員であっても社会保険に入っていないことがあるのです。

病院勤務や派遣看護師であれば問題ないですが、クリニックの場合は「法定福利として社会保険に入っているかどうか」が最初に確認するべき福利厚生のポイントだといえます。例えば、以下の求人募集は社会保険がないと分かります。

こちらの求人は5人以下のスタッフしか在籍していない小規模なクリニックの求人です。求人にこのような掲載しかされていない場合、社会保険には加入できません。

もし社会保険に入っていない場合、将来の年金額を考えると大幅に損をしているため、早めに転職したほうがいいです。

看護職賠償責任保険の負担は当然の福利厚生

また法定福利ではないですが、看護師として働くときに必要最低限となる福利厚生は他にもあります。それが看護職賠償責任保険です。

医療事故などで看護師自身が賠償事故の当事者となったとき、必要となる保険が看護職賠償責任保険です。看護協会に加入していれば、年間数千円の負担で加入することができます。

しかし看護協会に加入していなければ毎年、個人的に手続きを行う必要があり、年間5,000円程度の負担が必要となってしまいます。そうしたとき、下記のような掲載をしている求人を探すようにしましょう。

このように、保険料は病院負担となっています。ただ看護師として働く以上、看護職賠償責任保険の福利厚生があるのは当然であり、そうした環境を整えていない医療機関は微妙だといえます。

社会保険と同じように、「備わっているのが当然の福利厚生」が看護職賠償責任保険です。そこで求人票に看護職賠償責任保険の記載がなかったとしても、看護職賠償責任保険がどのようになっているのか事前に確認するのは必須だといえます。

求人募集で確認するべき福利厚生の内容

社会保険や看護職賠償責任保険については、あって当然の福利厚生のため、こうした福利厚生のない医療機関や施設で働く価値はありません。

しかし、本来はそれ以外の福利厚生に着目しなければいけません。このときメインとなる福利厚生には以下があります。

  • 住宅手当・寮などの居住費
  • 昼食・夕食の内容や値段
  • 託児所・保育園の有無
  • 手当:時間外手当、夜勤手当、退職金制度など
  • 資格取得支援などの勉強代負担

これらの内容がどうなっているのかについて、より深く確認していきます。

住宅手当・寮の居住費は手取りに大きく影響する

福利厚生の中でも、非常に重要になる項目が住宅手当・寮です。実際のところ、賃貸物件を借りるときに支払う毎月のお金は高額になりやすいため、どれだけの住宅手当支給になっているのかは非常に重要な要素だといえます。

例えば病院勤務だと、独身寮を備えている病院は安い金額で入居できることが広く知られています。その場合、寮費がどれくらいになっているのか確認すれば問題ありません。

ただ結婚したら寮を追い出されるケースはよくありますし、その場合は住宅手当がどのようになっているのか確認する必要があります。

一般的には、家賃手当を出してくれるケースでは月12,000~15,000円となります。これだけでも、年間の給料は実質的に約15~18万円ほど上がる計算になります。ただ中には、より高額な住宅手当を支給してくれるケースもあります。

例えば、東京にある以下の病院では住宅手当が月45,000円です。

通常の給料とは別に支給されるのが住宅手当です。そのためこの病院募集に応じて働けば、住宅手当や寮などの福利厚生が存在しない医療機関と比べて、「月45,000円 × 12ヵ月 = 年54万円」もの違いになります。

ちなみに住宅手当や寮については、以下のポイントを確認するようにしましょう。

  • 結婚後の人も対象となるか
  • 世帯主(収入を主とする人)のみが支給対象か
  • 金額はいくらか

住宅手当があったとしても、既婚者は対象外だったり、世帯主でないといけなかったりなどの規定があるため、これらを把握したうえで中途採用募集の福利厚生を確認する必要があります。

昼食・夕食の値段はそれなりに重要

また食堂での昼食や夕食がどうなっているのかは意外と重要です。クリニックや施設で働く看護師だと関係ないですが、病院勤務の場合だと「病院で提供される昼食や夕食メニューがどうなっているのか」は日々のやる気に関わってきます。食事がおいしければ看護業務により取り組めるといえます。

同時に値段も重要です。安い金額で食べられる医療機関については、その分だけ実質的な手取り金額が上がり、福利厚生が充実しているといえます。

もちろん病院だと一般患者さんも食堂を利用します。そこで、職員の昼食代や夕食代の負担額がどのようになっているのか確認するようにしましょう。例えば以下の求人だと、かなり安い金額で職員食堂を利用できると分かります。

毎日の食事になるため、特に病院への転職だと食事に関する福利厚生を面接・職場見学のときに確認しましょう。

子供がいる場合に重要な託児所・保育園

また看護師は女性が非常に多いため、妊娠希望であったり子供がいたりする場合、託児所の存在は重要です。またクリニックや施設などであっても、提携保育園があればすぐに子供を入れることができるので助かります。

ただ福利厚生として、託児所や保育園があれさえすればいいわけではありません。福利厚生では、その中身についても詳細に確認しましょう。例えば、以下の託児所では8:00~20:00までの利用しかできません。

この託児所は24時間営業ではないため、夜勤があれば小さい子供を一人家に置いていくことになります。そのため託児所ありとはいっても、機能不全の状態となります。日勤のみのクリニックであれば問題ないですが、夜勤ありの病院への転職だと子供を夜に預けられず後悔することになります。

これが、福利厚生で託児所や提携保育園の内容がどうなっているのか深く確認するべき理由です。また月の保育料も重要なので、これらがどうなっているのか転職前に注意深く確認するようにしましょう。

時間外手当、夜勤手当、退職金制度は重要な福利厚生

他にも看護師の場合、手当に関する福利厚生に着目しなければいけません。手当だと、例えば時間外手当や夜勤手当、退職金制度が重要になります。

これらの手当は法律に規定されておらず、それぞれの医療機関や施設によって内容がバラバラです。つまり、中途採用募集を出している求人先が自由に決められるのです。そのため手当については求人先によってバラバラです。

例えば以下の病院では、さまざまな手当てを用意していることが分かります。

夜勤手当(2交替)については1回13,000円なので普通ですが、子供がいる場合は月に保育料の手当てがあります。第一子は月20,000円であり、第二子は月15,000円です。そのため、かなり高額な手当てとなります。

また5年以上の勤務で退職金も出されるため、手当としてはそれなりに充実している求人募集だといえます。

資格取得支援などスキルアップの勉強代負担

他には看護師だと、働きながらも新たに勉強する人はそれなりにいます。そうしたとき、資格取得支援を含めたスキルアップの勉強代について、あなたがお金を出してもいいですが、医療機関や施設によっては福利厚生によって負担してくれる場合があります。

実際のところ、勉強するにも高額なお金の負担が必要になります。そうしたとき、資格取得支援の福利厚生があると非常に助かります。

例えば、以下は千葉にある病院から出された看護師募集です。

この中途採用では看護師に対して、新たな資格取得をするときの支援を実施していると分かります。また看護師として10年以上を働いている人であれば、看護学科通信制の費用についても資金支援してくれる福利厚生となっています。

転職後にスキルアップできるかというのは、こうした福利厚生も深く関わってきます。福利厚生が充実している求人募集であるほど、看護師として転職後に多くのことを学べるようになるのです。

個人病院やクリニックは院長の裁量が非常に大きい

なお規模の大きい病院であれば、多くのケースで独自の寮がありますし、残業代や退職金など、ある程度の福利厚生が備わっています。

一方でより注意しなければいけないのは個人病院やクリニックだといえます。先ほど、小規模クリニックでは社会保険にすら加入できないケースがあることを述べましたが、規模の小さい求人先だと福利厚生の裁量は院長に大きく依存するといえます。

福利厚生の内容は求人先が自由に詳細を決定できるからこそ、個人病院やクリニックの福利厚生の充実度合いは院長によってバラバラなのです。

事実、退職金の制度が用意されていないクリニックや施設は特に珍しくはありません。すべては院長の一存で決定するため、特に小規模の医療機関や施設へ転職するときほど、福利厚生の内容を確認するべきだといえます。

・クリニックでも院長次第で福利厚生は優れる

なお当然ながら、反対に非常に福利厚生が優れる個人病院やクリニックも存在します。従業員を家族のように考えてくれている職場だと、満足した働き方を実現できます。

例えば私の勤めているクリニックでは、自院で診察を受ければ医療費は基本的に診察代も薬代も無料です。スタッフの家族も基本無料であり、もちろん駐車場代も無料です。

また年に4回開催される「院内飲み会」は、すべて院長先生が費用を出してくれます。そのときは市内で一番高級なA5ランクの和牛焼肉店で開催したり、夏には鵜飼い船で食事を楽しんだりしたことがありました。

さらに毎日の昼食代も、提携しているお弁当屋さんを利用すれば院長が支払ってくれます。つまり、昼食代が不要です。それだけでなく「海外視察という名の旅行」に連れていってくれることも毎年あります。

仕事には厳しい院長ですが、飲み会の席で個人的に悩みを相談できる機会を作ってもらえるなど、スタッフ一人ひとりを大切にしてくれていると感じられます。そのためクリニックには、大きな規模の病院にはない個人経営ならではのアットホームな福利厚生の良さがあるといえます。

福利厚生が整っているかどうかの情報収集方法

このように考えると、充実した内容の福利厚生のある医療機関に勤めることは、看護師が転職するうえで大変重要だといえます。それでは福利厚生が充実しているかどうかについて、どのように情報収集を行えばいいのでしょうか。

これについて、求人票にある情報だけで判断するのは無理です。例えば、求人には「住宅手当あり」「託児所あり」などと記載されているだけであり、具体的な内容が不明なケースがほとんどです。

そのため福利厚生の詳細を知りたいとき、ほとんどの人が転職サイトを活用します。

もちろん気になる求人へ、すべて自分で問い合わせして、望む福利厚生がどうなっているのかすべて聞き出せるのであれば問題ありません。ただ福利厚生には注意点がいくつも存在します。例えば託児所だけでも、先に述べた通り運営時間や費用など確認するべきポイントがいくつもあります。

このようなポイントを素人が確認しても漏れが出てくるため、プロである転職サイトを利用するというわけです。そうして求人先の福利厚生をすべて把握したうえで、望む仕事内容や勤務形態のすり合わせを行い、正式に中途採用募集へ申し込むようにしましょう。

看護師転職の募集は福利厚生までが重要

病院やクリニック、介護施設などの中途採用募集へ申し込むとき、勤務形態や年収についてじっくりと検討するのは基本です。ただ福利厚生まで着目している看護師となると、人数は少なくなります。

ただ転職先の職場で実際に働くとなると、福利厚生は非常に重要な要素になります。福利厚生の充実度合いによって実質的な手取り金額や勤務環境はまったく異なってくるからです。例えば子供のいるママ看護師であれば、託児所の充実度合が「継続した勤務を行えるかどうか」に関わってきます。

そこで社会保険や看護職賠償責任保険を備えているのは当然として、その他の福利厚生がどうなっているのか詳しく確認するようにしましょう。

転職時に病院やクリニック、介護施設などの求人先が出す福利厚生までをチェックするからこそ、本当の意味で望む内容の転職を実現できるようになります。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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