看護師転職サイトには「当社で転職が決まれば最大〇〇万円のお祝い金を差し上げます」と書かれているケースがあります。

このお祝い金は3~10万円前後のところが多いですが、中には「最大40万円ものお祝い金を出す」と宣言している転職サイトがあります。このように高額なお金が記されていると目を引きます。

「せっかく同じように転職サイトを利用して転職するのだから、お祝い金をもらえる転職サイトから申し込んだほうが得である」と考えるのは自然です。ただ、「お祝い金制度のある転職サイトからの転職」を利用すると高確率で後悔します。

つまりお祝い金を支給している転職エージェントを利用するべきではありませんが、この理由について解説していきます。

求人紹介会社のお祝い金(支援金)の仕組み

求人サイトが取り扱っている中でも、お祝い金とはどのようなものなのでしょうか。また、なぜ転職後にお祝い金を受け取れるのかについて、その仕組みを理解しなければいけません。

お祝い金制度を設置している転職サイト経由で就職すると、支給してもらえるお金がお祝い金です。転職サイトによって「HAPPY ボーナス」「転職支援金」など呼び方が異なることもあります。

このときのお祝い金は医療機関など採用側が出すのではなく、転職サイトの利益の一部について、入職の決まった看護師に分配しているものになります。

まず転職エージェントというのは、「転職したい看護師」と「看護師が欲しい医療機関」を引き合わせ、医療機関から手数料(看護師年収の20~30%)を得ることで成り立っています。

例えば看護師が年収500万円で転職した場合、「年収500万円 × 30% = 150万円」が医療機関から転職サイトがもらえる手数料です。その手数料の一部を、採用者(看護師)にお祝い金として分配しているのです。

転職サイトを運営していくためには、なによりも「人材=転職したい看護師」を集めることが重要です。そのため各転職サイトは、広告を出したり、転職に必要なサービス(履歴書添削や面接同行サポート、給与アップ交渉、求人紹介など)を充実させたりします。

そのサービスの一つとして行われているのが「お祝い金制度」です。

・現金支給を実施する求人サイトは微妙

一見するとお祝い金制度は転職者にとっては魅力的です。転職のタイミングによっては無収入の時期があったり、引越ししたりして、経済的に不安を抱えるケースが多くなります。転職時に少しでもお祝い金をもらえるのであれば、経済的に助かることは間違いありません。

ただ転職したい看護師を集める方法のひとつとして「お祝い金という名の現金を支給する」というのは微妙です。

応募してきた看護師一人ひとりに対して満足いくサービスを提供している転職サイトであれば、口コミでどんどん評判が広まっていくため、現金を支給してまで転職希望の看護師を集める必要はありません。

一方で、お祝い金を出す転職サイトの多くは「お祝い金という名目の現金で吊らなければ転職希望の看護師が集まりにくい」といえます。

誰もが転職時にお祝い金を満額受け取れるわけではない

なお転職サイトに「最大〇〇万円お祝い金をプレゼント」と記載があると、満額もらえるかのように錯覚します。しかし、サイトに掲載されているような満額のお祝い金をもらえるわけではありません。

転職サイトごとに細かな規定が設けられているため、すべての条件を満たして全額支給される人は少ないのが現状です。例えば「転職支援金35万円」と記載のあるナースJJの場合、下記のような支給額となります。

出典:ナースJJ

上記のように転職した看護師全員が35万円もらえるわけではありません。また常勤ではなく非常勤やパートなどでは、このお祝い金が支給されないこともあります。

さらに注目してもらいたいのは、この支援金が記載されている下の部分です。

引用:ナースJJ

ナースJJの場合、転職支援金は転職してから3ケ月後と6ケ月後、アンケートに答えた場合のみ、2回に分けてもらえます。つまり、転職後すぐにお祝い金を支給されるものではないのです。

これはナースJJに限ったことではありません。お祝い金が支給される他の転職サイトでも、同じような規定を設けているケースが多いです。例えば「看護プロ」の場合だと、以下のようにお祝い金は3万円です。

出典:看護プロ

「3万円なら、転職後すぐに全額もらえるだろう」と考えてしまうかもしれません。しかし、このお祝い金にも以下のような注意事項の掲載があります。

出典:看護プロ

看護プロの場合だと、お祝い金は入職すれば一括してもらえる仕組みになっています。しかし、こちらも「入職から半年後に支給」との記述があります。しかも、夜勤のある常勤看護師なら3万円、日勤のみの常勤なら2万円、非常勤であれば1万円と細かい金額が設定されています。

このようにお祝い金を出す転職サイト経由で転職したからといっても、サイトに記載されているお祝い金は満額支給ではなく、しかも入職後すぐにもらえないことを知っておきましょう。

求人サイトがお祝い金を出す本当の理由

そうしたとき、求人紹介会社がお祝い金を出す理由は「 転職希望の看護師登録者を増やすため」だけではありません。転職後の退職を防ぐ意味もあります。

前述の通り転職希望の看護師が転職サイト経由で採用された場合、その医療機関は転職サイトに紹介手数料を支払わなければなりません。

しかし紹介手数料には、返金規定が設けられています。この返金規定では、短期間(おおよそ3ケ月~半年くらい)で採用した看護師が退職した場合、転職サイトは医療機関に紹介手数料を返還しなければならない決まりになっています。

そのため転職サイトとしては、紹介した看護師には最低でも半年は勤めてもらわなければ売り上げにならないのです。

このようなことから、お祝い金は入職が決まったからといってすぐに貰えるものではないのです。3ケ月から半年くらい勤めて、ようやく求人サイトからお祝い金を貰えるのです。

お祝い金を出すタイミングを先延ばしにすることで採用された看護師に長く勤めてもらい、医療機関への返金をなくすようにするのが狙いです。

注意しておきたいお祝い金制度

ただ、お祝い金制度のある転職サイトから紹介された求人というのは、本当の意味で「あなたの勤務条件に合っており、満足した働き方が実現できるのか」を考える必要があります。

労働環境の良い医療機関であれば、お祝い金を貰えるかどうかに関係なく、誰しも長く勤め続けたいと考えます。しかし、誰もが敬遠する人気のない医療機関の場合、お祝い金がなければ、その求人募集に申し込もうと考える人は少なくなります。

こうした理由から、お祝い金につられて転職先を決定すると、ダメな病院やクリニック、施設の求人を紹介される可能性が高くなります。

もちろん、すべてにおいて「退職したくなるような医療機関を紹介される」とは限りません。しかし、お祝い金を支給する転職サイトの情報や口コミを調べてみると、実際のところ良い評判はありません。的外れな求人が多いのが実情です。

「半年経ってお祝い金をもらったけれど、この先、この職場で勤めるのは限界…… 」となってしまわないように、良質なサービスを提供しており、満足いく職場を紹介してくれる転職サイトを選ぶことのほうが重要だといえます。

お祝い金は求人サイトのサービスを低下させる

なお、お祝い金制度があると、どうしても転職サイトの担当者の質や提供するサービスが低下してしまう理由があります。

お祝い金を出さない転職サイトであれば、お祝い金の分だけ担当コンサルタントやサービスを充実させることができます。一方で、お祝い金制度のある転職サイトは、お祝い金を提供する分だけ、担当コンサルタントやサービスに力を注げない一面があります。

お祝い金を出す転職サイトでは「余計な広告を出さない分、それを転職者に還元することが可能」と書いてあることがあります。例えば、最大40万円ものお祝い金を出す「ジョブデポ看護師」をみてみましょう。

出典:ジョブデポ看護師

「余計な広告にお金を使わず、その分を採用した看護師に還元してくれる仕組み」となると、大変うれしいサービスのように思えます。

しかし、さらに詳しくどのようなサービスを行うのか具体的にみてみると、以下のように「他の会社から紹介された求人でもいいの?」という文言があります。

出典:ジョブデポ看護師

この質問に対して、ジョブデポ看護師では「他社から紹介された求人でも、ジョブデポ看護師で紹介可能」としています。

出典:ジョブデポ看護師

このように「他社で紹介された求人でも、面接前(面接日程が決まっていない状況)であれば、ジョプデポ看護師経由に変更して転職することが可能」としているのです。これはつまり、売り上げとしてお金になる部分だけ他社から横取りしているといえます。

他の転職サイトでは、広告を出したり、サービス(転職相談・履歴書添削・面接同行など)を充実させたりして転職希望の看護師を集め、希望条件にあった求人を紹介して仲介します。

そうして看護師を希望の医療機関とマッチングさせて採用が決まれば、始めて報酬を手にすることができ、売り上げに結びつきます。このように採用までには、かなりのサービスを行い、費用をかけなければいけません。

一方でジョプデポ看護師では、他の転職サイトが費用をかけてコツコツ頑張ってきた最後の売り上げの部分だけを奪っているといえます。

広告を出す・出さないが問題なのではなく、もともと「転職希望の看護師を集め、医療機関と提携する」といった会社全体の営業能力がないといえます。

実際にジョブデポ看護師にある求人情報をみてみると、一見すると全国的に多くの求人数を保有していることを確認できます。しかしそれらの求人の詳細をみてみると、多くの求人は募集が終了していたり、とっくの昔に閉院していたりしています。

例えば私の住んでいる近隣の市の医療機関・施設などは、大小合わせて十数件しかありません。しかし、ジョブデポ看護師には同じ市だけで99件の看護師求人が掲載されていました。つまり、どう考えても数が合いません。

このようにリアルな求人広告を掲載しているのではなく、ただ転職希望の看護師を集める目的で吊りの求人広告を掲載している可能性が非常に高いといえます。

こうした実情もあり、お祝い金制度を採用している転職サイトはどうしても質が非常に悪くなります。

また、質の悪いサービスとなると「質問をしても答えない」「転職後のフォローをしない」など、本来であれば行われるべきサービスが提供されない恐れがあります。そのため、高い確率で利用を後悔するようになります。

厚生労働省の通達無視が紹介会社のお祝い金

ちなみに、お祝い金制度を設けている転職サイトは以前に比べて減っています。これは2018年1月施行の厚生労働省による「職業安定法の改正」が影響しています。この職業安定法とは、労働者に職を斡旋するルールを定めた法律になります。

下記が「職業安定法の改正」になります。

出典:厚生労働省「職業安定法の改正について」

なぜ職業安定法が改正されたのでしょうか。それには、以下のような理由があります。

以前、ある転職サイトがお祝い金制度を始めたところ、労働者をたくさん集めることができ事業拡大に成功しました。それから多くの転職サイトで、お祝い金制度を確立していくようになりました。

しかし、そのうち「お祝い金目的で転職を繰り返す人」が出てき始めたのです。これだと採用した企業や医療機関は人材を育成しても短期間で退職してしまうため、採用に消極的になり、雇用促進が図れなくなってしまいます。

またお祝い金目的で吊り上げた労働者に対して、粗悪な労働環境の職場を紹介してトラブルに発展する転職サイトも増加してきました。

労働者も転職サイトも「満足した転職を実現する」という本来の目的を失い始めたのです。

このような経緯から労働安定法を改正することで、労働者と採用側双方にとって、良い労働環境を作っていかなければならない」と厚生労働省は考えたのです。もちろんお祝い金の問題だけが今回の法改正の理由ではありませんが、原因の一つとはいえるでしょう。

この法改正の中で次のような内容が記されています。

出典:厚生労働省「職業安定法の改正について」

上記のようにお祝い金制度自体は禁止ではありません。しかし「望ましくない」と明記されています。そのため看護師転職サイト以外の転職サイトでも、この法改正のコンプライアンス(法令順守)を行うため、お祝い金制度を無くす企業が増えてきています。

ただお祝い金制度をいまでも採用している転職サイトというのは、こうした厚生労働省の通達を現在でも無視しているといえます。そうした法令順守の考え方のない転職エージェントを利用し、優れた中途採用募集を紹介してもらえることなどないといえます。

転職サイトはお祝い金ではなく「質の高さ」で選ぶ

ここまで看護師の転職にまつわるお祝い金について話してきました。求人サイトが提示するお祝い金制度には、以下のようなデメリットがあります。

  • お祝い金は満額もらえない可能性が高い
  • 悪質な労働環境であっても試用期間中に辞めるのは難しい
  • 転職サポートを十分に受けられない
  • 厚生労働省の通達を無視している

このようなことから、「お祝い金制度」をアピールするような転職サイトはまったくおすすめできません。国からの通達すら守れない紹介会社は優れるはずがないといえます。

いまあなたは、転職をして自分の置かれている状況を変える人生の好機にいます。そうしたとき、転職によって「お祝い金以上の給与をもらえる」「満足いく働き方を実現できる」など条件の良い求人があるにもかかわらず、目先のお祝い金に目が向いてしまえば、これらの優良求人を逃してしまいます。

あなたの転職の目的は「あなたらしく満足して働ける職場に転職する」ことです。目先のお祝い金をもらうために、転職するのではありません。

このことを第一に考えれば、どのような転職サイトを選べばよいのか自然と見えてくるはずです。質の高いサービスを提供し、あなたの転職を成功に導いてくれる転職サイトを選ぶようにしましょう。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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