日本では1998年以来、1年間の自殺者が3万人を超え、深刻な社会問題として提起されています。また、近年未曾有の災害に遭遇した人の中には、復旧後も悪夢やフラッシュバックなど、心的外傷(トラウマ)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされる人も多くいます。

このように「心のケア」を必要とする人が日本では年々増加しており、「精神科看護に携わっていきたい」とするあなたは、まさに貴重な存在だといえます。

そこで今回は、「精神科に転職したい看護師が留意しておきたい大切なこと」についてお話ししていきたいと思います。

精神看護は一般病棟でも必要

精神科に転職希望の看護師は、「一度精神科に勤めると、看護スキルがあまり身に付かないので、一般病棟に戻るとき大変」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし今や、精神看護は一般病棟でも必要なスキルともいえるのです。

精神科で培った看護スキルは重要

あなたが精神科看護に携わった後「やはり一般病棟で働きたい」と精神科以外の病棟に戻ったとしても、精神科で培われた看護スキルは活かしていくことができます。

今から、その理由について述べていきましょう。

昨今、テレビの報道を見ていると、日本で精神疾患を抱える患者さんは年々増加し、重症化の一途をたどっているように思えます。そして精神科に入院している患者さんは、統合失調症の方が多いのは周知の事実です。

しかし実のところ、割合からいえば、統合失調症以外の精神疾患を抱える外来通院の患者さんの数が激増しているのが日本の現状なのです。

これは世界的にも、「精神障害をもつ人であっても精神科ではなく、初診は外科や内科などの一般診療科を受診することが多いため」とされています。実際、うつ症状をもつ患者さんの約65%は、初診で受診した科は「内科」だと答えるくらいです。

私が勤める内科でも「うつ病や統合失調症、アルツハイマー病または血管性など軽度の認知症の患者さん」が来院する割合が高くなってきています。

私は、統合失調症の患者さんの点滴を行ったときに困ったことが起きたのを覚えています。その患者さんは普段温厚で、点滴処置の事前説明にも納得し、問題なく点滴を開始することができました。

私は、点滴をしている腕を動かさないように軽く固定をさせてもらい、度々様子を見に行くことにしました。しかし、私が3度目にその患者さんの様子を見に行った時、問題が発生しました。

私が「どうですか?」と声をかけにいくと、ベッドの横で「自分で点滴を引き抜いて、血だらけになって呆然と立っている患者さん」がいたのです。床にも血液がポタポタと落ちていました。

すぐに他の看護師を呼んで患者さんを落ち着かせ、点滴を続けるよう説得をしました。しかし、「この点滴はしたくない。『体に良くないものが入っている』と、通りすがりに誰かに言われた」と、その患者さんはこれ以上の治療をすべて拒否しました。

私の勤める内科の看護師には、精神科の経験をもつ看護師が誰もいません。そのため、精神障害をもつ患者さんに対応する場合、どのように具体的に動けば良いか分からず、大変困惑してしまったことを覚えています。

このような場合、「精神科で経験を積んだ看護師がいてくれたら、どのような対応をすれば良いのかが分かるので助かるな」と何度も思いました。

このようなことから、いまでは一般診療科の看護師でも、精神看護の知識やスキルなしには患者さんへの対応が難しくなっているのが現状といえるのです。

日本は病床数も在院日数も格段に多い

さらに現在、日本は精神医療について問題を抱えています。日本は他の先進諸国と比較すると、精神科における病床数も在院日数も圧倒的に多いのです。

精神患者さんにとって看護師は貴重な存在

病床数も在院日数も多い日本では、精神患者さんにとって看護師とは他の科の患者さんと比較すると「はるかに貴重な存在」といえます。

まずは、様々なデータから日本と先進諸国の精神科医療の現状についてお話していきます。

欧米などでは、1960年以降、精神科病院が閉鎖され、コミュニティケアへと転換が図られてきました。長期入院患者さんの退院を促し、地域に戻ったときに在宅生活をサポートする地域精神保健サービスが提供されるようになりました。

このような働きから、アメリカの精神科病床は1955~1991年の間に、56万床から10万床に減少させることに成功しました。

しかし、厚生労働省のデータ(2011年の患者データ)によると、多少少なくなっているとはいえ、日本では未だに精神科病床が34.4万床あり、また約30.7万人の患者さんが精神科に入院しているのです。

日本の人口1万人当たりの精神科病床数は28で、これは世界でもダントツの多さであるといえるのです。次の表を参照してください。

【人口1万対精神科病床数】

日本 28
イギリス 7
フランス 10
イタリア 1
スウェーデン 5
アメリカ 3
カナダ 3
韓国 8

(出典:OECD Health Data 2007)

さらに日本では「精神病床の平均在院日数は2011年の時点で300日を切り、298日に減少した」といわれています。

この結果より、厚生労働省では「精神病床の平均在院日数が年々短縮傾向にある」と言及していますが、下記に挙げた2008年のOECD Health Dataをみてみると、こちらのデータも日本が突出していることが分かります。

【退院患者の平均在院日数】

日本 298.4
イギリス 57.9
オランダ 22.6
ドイツ 22.0
スウェーデン 16.5
カナダ 15.4
オーストラリア 14.9
イタリア 13.3
アメリカ 6.9
フランス 6.5

(出典:OECD Health Data 2008)

ちなみにこの数値は、退院した患者さんの平均在院日数です。その中には20年、30年、40年、50年と超長期の入院患者さんも含まれていることになります。

このような長期在院となっている背景としては、「在宅療養に大変な思いをしてきた家族の退院患者さんの受け入れ拒否」や、「サポートする家族の高齢化や死亡などの理由による、帰る家をもたない患者さんの増加」などが挙げられます。このため、平均在院日数が長くなっているのです。

このような悪状況を改善するため、日本でも2004年、厚生労働省が「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を実施し、「社会的入院患者」を退院させる計画を打ち出しました。

「社会的入院患者」とは、精神的な病状が回復しているにもかかわらず、退院後の受け入れ条件が整わず、長期入院を続けざるをえない患者さんのことです。

しかし、精神医療の地域ケアシステムを整備するには、予算も法律も十分ではなく、前途多難な状況が続いているのです。

また、他の先進諸国は精神科医療が公的機関によって担われているため、地域ケアへと比較的簡単にシフトすることができました。一方で日本の場合、精神科病床の約90%以上は民間によって担われており、「経営を維持するためには、入院患者をある程度確保していかざるを得ない」という背景もあります。

さらに、日本では、まだまだ精神障害者に対する偏見や差別が根強く、地域に精神障害者施設の建設をしようとしても、近隣住民の反対でその計画が頓挫してしまうことも多くあります。

多くの精神障害者は社会的な問題を起こすことなく生活しているにも関わらず、マスコミはある一人の精神障害者が起こした社会的問題をセンセーショナルに報道します。それは精神障害者に対して、さらなる「偏見や差別」を作り出す要因となっています。

実際のところ、「精神障害者と診断を受けていない人のほうが、はるかに高い犯罪率である」にも関わらず、「精神障害者が起こした犯罪には社会は敏感に反応する」ようになっているのです。

このようなことから、まだまだ日本では「精神患者さんを地域で支える」といったことが難しいのが現状なのです。日本では、依然として「精神疾患を抱えている患者さんを支えている現場は地域コミュニティではなく、病院などの医療機関で担っている」といえるのです。

基本に立ち返り、看護師の役割は「診療の補助」と「療養上の世話」です。精神科の患者さんにとって、療養上の世話をしてくれる看護師が「一番身近で、自分のことを分かってくれる貴重な存在」であるのです。

精神看護に携わる意味

次に、あなたがこれから「精神看護に携わっていく意味」について述べていきます。転職するにあたり、精神科に携わる意味を再考していただき、精神科看護に活かしていってもらえたらと思います。

人間関係で傷ついた人を癒やす役割がある

精神科看護には、「人間関係で傷ついた人を癒やしていく役割」があります。

人間が人間らしく生きるためには、人とのつながりが必要不可欠です。しかし人間同士のつながりが、逆に人を傷つけることもあります。これについては、誰しもこれまでの人生で経験してきたことがあるでしょう。

このように誰かに傷つけられた人は、「自分を理解し受け入れてくれる人を求めながらも、簡単には人を信頼し、受け入れることができない」ことが多いです。

精神看護に関わる看護師は、このような患者さんが抱える「生きにくさ」に関わっていくことになります。

これは精神科看護において、非常に困難な課題であるともいえます。

というのも、どのような看護ケアにも、患者さんとの間の信頼関係、相互関係が大切といえるからです。特に精神科の患者さんは、その信頼関係がすぐに崩れやすく、他の人よりも長い時間をかけて関係を構築していく必要があるのです。

看護師も完璧ではない

一方で、看護師も患者さんを看護する立場にありながら、完璧な人間ではありません。誰しも社会生活を送るうえで、「なんらかの生きにくさ」を抱えています。

そのため精神看護に携わることで、自分の内面に抱えている問題にも直面せざるを得ないことになります。

精神看護に携わっていきたい看護師だからといって、精神障害に対する恐怖心や先入観、偏見が全く無いわけではありません。

頭では精神科の患者さんについて理解しているつもりでも、看護ケアなどの対応の中で、ときには患者さんに不安や恐怖を感じることもあります。これは、人間的な自然な反応です。

とくに看護師の場合、医師や他の医療関係者と異なり、看護ケアを通し、患者さんと身体的にも心理的にも近い関係であり、関わることが多くあります。そのため、もし患者さんとの間に一旦、不安や恐怖などの複雑な感情が引き起こされてしまうと、そこからさらに多くの不安や葛藤が生まれてしまうことがあります。

この不安や葛藤を初めから拒否して、そのまま放っておき、患者さんとの間に距離を置くこともできます。しかし、それでは患者さんに対して、ただの看護業務、管理的な対応に留まってしまいます。

管理的な対応に留まっているだけでは、患者さんを理解するどころか、信頼関係を築き、本来の看護を行うことはできないのです。

無意識のうちに患者さんを従属させない

特に看護師と患者さんの間には入院当初から「ケアする側とケアされる側」という関係が成立しています。ケアしケアされるということは、人間にとって「支配と従属」という関係を作ってしまう可能性があるのです。

精神科の看護師は自分の中で、患者さんより自分のほうが上の立場となり看護を行っていないか」ということを常に意識しなければなりません。

あなたにそのようなつもりがなかったとしても、無意識のうちに患者さんに「従属」という立場をとらせ、患者さんの生きにくさを助長し、尊厳を傷つけていることもあるかもしれないのです。

精神科看護を行うということは、「患者さんの理解をするだけでなく、自分自身を理解し、振り返っていくこと」だといえます。

「人の痛みに対する想像力を研ぎ澄ませ、倫理観をもち、患者さんやご家族の尊厳を保ち、自分自身も大切にしていく」ことが精神科の看護師に求められていることです。

精神障害は特殊なことではない

どのような人でも、人生において多くの危機に遭遇し、それを乗り越えながら生きています。危機に対して、怒りや苛立ち、無視、努力、逃避など人によって様々な反応を示します。

精神障害は危機に対する一つの反応です。なにも特殊なことではありません。傷ついた自分を守るための一つの防御策なのです。

精神障害の有無に関わらず、人は誰しもその人らしく生きていく権利をもちます。患者さんもあなたも、すべての人が変化し、成長していく可能性を秘めているのです。

その人らしく生きていくためには、人とのつながりが大切になります。傷ついてボロボロになった人を長い目で見守り、その人が自己実現へと向かう過程を支え、精神的・身体的・社会的な援助を提供していってもらえたらと思います。

あなたはその力をもっているのです。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

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