実際のところ看護師として勤務している場合、給与明細に記載された残業時間とは別に、研修会や委員会への参加、看護研究などで莫大な自分時間をサービス残業に費やしている可能性が高いです。その結果、働き方に満足できていない人が多いのが現状です。

あなたについても、いまの職場で残業代が出ない状況になっていないでしょうか。

仕事に関する業務での残業だと、残業代は支給されるのが当然です。ただ仕事として働いているにも関わらず、残業代が未払いとなっていて給料に反映されていないケースは多いです。

そこで多くの看護師の悩みの種である残業代の問題について、平均残業時間を踏まえながら解説していきます。

看護師が抱える病院・施設の深刻な残業時間の実態

大手企業に勤める新入社員の相次ぐ過労自殺などが社会問題となり、国は残業時間についての見直しを行うようになってきました。このとき、一般的には月60時間の残業時間が過労死ラインとみなされています。

ただ、一般企業の労働者と看護師の働き方には大きな違いがあります。

それは「病棟勤務などの場合であれば、看護師は夜勤など24時間体制で働く必要がある」ということです。一般企業に勤める場合は基本的に日勤ですが、病棟看護師は日勤に加えて夜勤という変則的な働き方があります。

特に夜勤は看護スタッフの人数が少なく、患者40人に対し看護師2人で対応することが多いため、日中よりも責任感が増え、さらに緊張感をもって仕事に臨まなければいけません。

そのため看護師の夜勤は心身ともに非常な負担がかかり、睡眠障害や循環器疾患などの原因のひとつとされています。中には「長期的にみると、夜勤はがんを引き起こす可能性が高くなる」と指摘する医師もいるくらいです。

このようなことから看護師の場合、夜勤などの交代制勤務の精神的・肉体的負担などが考慮され、一般の労働者と比較して少なめの残業時間となる月50~60時間の時間外労働で過労死認定を受けています(大阪高裁 2008年・公務災害)。

看護師の平均残業時間は非常に多い

このような高裁での判決の判決を受けて、日本看護協会が看護師の時間外労働の実態を調査したところ、以下のような結果が出ました。

出典:時間外勤務・夜勤・交代制勤務実態調査 – 日本看護協会

もちろん、これは看護師の平均残業時間についての正確なデータがありません。ただ、このグラフを見るとわかるとおり、交代制勤務で働いている看護師の場合、月に10時間以上残業をしている看護師は6割以上存在することになります。

さらに月の残業が50時間を超える割合が7.7%であり、実に13人に1人の看護師が過労死認定ラインを超えた残業をしているといえます。

しかも、これは残業時間をカウントした場合の調査結果です。サービス残業や就業時間外の研修会参加、看護研究に費やす時間などの残業は含まれていません。これらを含めると、もっと多くの看護師が時間外勤務を強いられているといえます。

時間外労働の上限は月45時間

このとき、時間外労働の上限は月に何時間と定められているか確認しておきます。

労働基準法においては、時間外労働(残業)の上限は過労死ラインを下回る、月45時間(年間だと360時間)と定められています。以下の表を参考にしてください。

月に20日間勤務する場合、一日あたり2.25時間の残業時間が上限になります。もし法定ラインである月45時間の残業時間を超えた場合、違法となる可能性があります。ただし、一時的に忙しい時期がある場合だと、45時間の残業時間を超えて労働したとしても法律上認められます。

あなたの残業時間をみて、毎月の残業時間が月45時間を超えるようであれば、上司か労働基準監督署に相談をして、職場環境の改善を図ってもらう必要があります。

看護師の残業代は平均すると2万5,342円

このとき、看護師の平均残業代はどうなっているのでしょうか。日本看護協会の「看護師の賃金水準データ」によると、看護師の一ケ月の平均残業代は2万5,342円です。こちらは、残業時間をカウントした場合の結果です。

労働基準法では残業について割増賃金率が適用され、通常賃金の25%以上にしなければいけない規定があります。ちなみに夜勤明けからの残業の場合であれば、通常賃金の50%以上など様々な設定がされています。次に示すのが割増率の表になります。

残業の種類割増率
法定時間外労働25%
1ケ月60時間以上の法定時間外労働50%
深夜労働25%
休日労働35%
法定時間外労働 + 深夜労働50%
法定時間外労働(60時間/月以上) + 深夜労働75%
休日労働 + 深夜労働60%

あなたが貰っている残業代は、規定に合っているかどうか確認してみましょう。例えば、以下に示すのは、以前に私が実際に眼科クリニックで働いていたときの給与明細の一部です。これを使って、簡単な計算をしてみます。

月の残業時間が22.00と記されています。また、この残業時間に対して残業手当が38,742円となっています。これを時給に換算すれば、38,742円 ÷ 22時間ですので、1,761円ということになります。

この月の実働時間は152.0時間であり、基本給は200,000円ですので、就労時間内の時給は1,315円です。

「残業賃金1,761円 ÷ 通常の賃金1,315円 = 約1.34」となるため、通常賃金よりも残業の割増賃金率は1.25以上になっており、労働基準法の規定を満たしていることが分かります。

ただ実際には、この眼科クリニックでは残業としてカウントされていない「過労死ラインの月60時間を超えるサービス残業」がありました。そのため、実はかなりのブラックの職場でした。

病棟でも外来でも未払い賃金(サービス残業)が多い看護師の実態

そこで、次に看護師のサービス残業の実態について確認していきます。以下のグラフを参照してください。

引用:2013年度看護職員労働実態調査

オレンジの〇で囲んだ部分が「前月に賃金不払いの労働があった」とする部分です。5時間から50時間と幅はありますが、実に「看護師の7割は賃金不払い労働がある」という結果となっています。

例えば先ほどの眼科クリニックの場合、就業規則上の勤務開始時刻より1時間前に院内外の清掃作業がありました。また、ほぼ毎日4時間程度の残業がありました。水曜と木曜は手術日であり、その曜日の残業代は支払われるのですが、それ以外の日の始業時間前の清掃と残業はすべてサービス残業でした。

また私は眼科クリニックに勤める前、病棟勤務をしていました。夜勤後の先輩の指導、終業時間後の研修や勉強会への半強制参加、その他にも看護研究の話し合い、委員会出席など、すべてがサービス残業でした。

しかし、いまの職場に転職して気づきましたが、看護師だとしてもサービス残業は当たり前ではありません。いまの職場では「院内研修は時間内に行う」「残業をした分だけ残業手当がつく」ことになっています。

7割の賃金不払い労働を強いられている看護師がいる一方、3割の看護師は賃金不払い労働のない環境で働くことができているのです。つまりきちんと職場を選べば、残業代が出ない問題を解決できるといえます。

サービス残業となる仕事内容の内訳

参考までに、サービス残業の主な業務内容としては、次の通りです。

  • 看護記録:60.9%
  • 患者さんの情報収集:47.7%
  • 患者さんへの対応:43.9%
  • 研修:15.2%
  • 各種委員会:13.9%

どれも自主的にしている仕事ではなく、すべて看護業務に関わる仕事であるのにサービス残業としてみなされていることが多いです。

看護師の不払い賃金の総額は、年間3億円以上になるといわれています。さらにサービス残業は改善されるどころか、年を追うごとに悪化傾向にあるとされています。

未払いの時間外労働は残業代を請求できるのか

ちなみに時間外労働を行った場合、給与請求はできるのでしょうか。結論からいえば、時間外研修や勉強会、掃除などが強制参加であるのなら、その時間の給与を請求できます。

強制参加とは、「上司や職場の命令に従わなければならない仕事か」「勉強会や研修などに参加しなかったため、懲戒処分や不当な罰則が科せられたか」が判断基準です。

反対にいえば、「この研修に参加してみたらいいよ」と誘われる程度の研修であれば、労働時間に当たりません。もし参加しなくて「仕事の意欲が劣る」と陰で言われたとしても、「不当な罰則を受けた」とまではいえないのです。

例えば看護記録が終業時刻までに終わらず、時間外に仕上げなければならない場合であると、上司や職場の命令に従わなければならない仕事になります。そのため記録関係については、労働時間に該当する可能性が高いです。

他にも、始業時間前に行う掃除も「早めに来て掃除をしなさい」と明示されているのであれば、労働時間に該当するでしょう。

反対に情報収集などであれば、時間が足りないと考えて自らが早めに出勤して行うのであれば、たとえ仕事に必要だとしても自主的にしている行動とみなされるので労働時間には当てはまりません。

また勤務時間外に行われる看護研究の話し合いなども、上司から「絶対に参加しなさい」といわれたのでなければ、強制参加とはいえません。

ただ、私が以前勤めていた眼科クリニックでの始業時間前の1時間の掃除は、院長から「みんな早く来て掃除しているみたい」といわれただけでした。このような場合、明示されているわけではなく、職員が朝、自主的に掃除をしているとみなされる可能性があります。

そうなると残業代は発生しませんので、注意が必要です。つまり、残業となるかどうかは職場の雰囲気も要素として大きくなります。

看護師が転職し、満足する残業代を手にする求人の見方

そうしたとき、看護師が満足する残業代を手にするにはどうすればいいのでしょうか。主な選択肢は次の3つです。

  • 現状の労働環境の問題点を洗い出し、上司に直接交渉する
  • 証拠を集めて労働基準監督署にもっていく
  • 転職する

このとき、いまの上司と交渉しても改善されるのは現実的にありません。改善可能なら、残業代の未払いは起こっていないはずです。そこで、転職するのが基本です。

証拠を集めて労働基準監督署にもっていってもいいですが、その場合はいまの職場へ情報が筒抜けになり、同じように働くのは無理になります。そのため、いずれにしても現実的には転職以外に方法がありません。

つまり残業代が出ない状況を改善し、気持ちよく長く働いていきたいのであれば、転職して「働き始めから労働環境が整った職場に勤める」のが一番簡単で効率のよい方法だといえます。他の方法によって現状を変えることができたとしても、莫大な労力を必要とするわりに見返りが少ないためです。

転職を成功させるには、以下のような条件をしっかり守ってくれる職場に巡り合えることが重要になります。

  • 残業時間を考慮している
  • サービス残業がない
  • 残業時間は1分単位でつけてくれる
  • 研修や勉強会、委員会への産科は就業時間内か勤務調整が行われる

ただ、このような具体的な条件をつけて求人を探しても、自力では非常に厳しいです。公式サイトに条件が掲載されていることはないからです。まさか「残業代をきちんと支払ってくれるか?」と医療機関に一つずつ連絡して確認するわけにもいきません。

そこで残業などがあっても働きやすい労働環境を整えている求人を見つけるには、転職サイトに登録する方法が最も一般的です。

例えば以下は、転職サイトに掲載されている東京にある小規模の急性期病院の求人になります。

この病院の場合、残業時間は月10時間なので最初から少なめだといえます。満足する残業代を支払ってくれる求人だと、勉強会や研修会の多い急性期病院よりも、慢性期病院や小規模病院のほうが多い傾向にあります。

他にも残業に関して優良な求人としては、以下のような記載がされている医療機関もおすすめです。こちらは、大阪にある病院の求人です。

時間外研修は「任意参加だとしても時間外手当が支払われる」「勤務調整をしてくれる」となっています。このような求人であれば、看護師の負担を考えた優良な職場環境が整えられているといえます。

・職場見学により、実態を把握する

ただ、いくら求人票に月の残業時間を含めて記載されていたとしても、それらの情報が真実であるか見分けるのは不可能です。実際に入職すると、サービス残業が非常に多いケースもあります。

そこで面接では必ず対象の病院やクリニック、施設へ出向くことになりますが、現場で働く看護師に「実際のところはどうなのか」をヒアリングするようにしましょう。これにより、職場の実態が見えてくるようになります。

師長(または院長)など上の立場の人は自分の職場について、良いことしか伝えません。そこで現場の看護師に聞くことで、ようやく求人先の職場へ転職したときの残業時間や未払いの問題が分かって狂うようになります。

満足する残業代を手に入れ、快適な労働環境で働く

労働環境は非常に重要であり、優れた職場かどうかを指し占めるものに残業代があります。残業時間の多い少ないのも重要ですが、残業代がきちんと支払われているのかどうかも優れた職場かどうかを見分けるうえで重要だといえます。

そうしたとき病院やクリニック、施設を含めて「看護師なのでサービス残業を行うのは当たり前」という雰囲気の職場はたくさんあります。

ただ、ここで示した通り3割ほどの看護師は残業について不満がなく、残業代未払いの問題も起こっていません。つまりきちんと求人を探せば、転職を含めて長時間労働の問題や残業代が出ない状況を改善できるのです。

少し目線を変えれば、働きやすい環境が整っている職場はいくつもあります。看護師だからこそ過剰な残業に目を向け、あなたにとって満足いく働き方を手に入れることが大切です。それが患者さんの安全だけでなく、看護の質の向上につながっていくのです。


看護師転職での失敗を避け、理想の求人を探すには

求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。

これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページでは転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。

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