うつ病は「心の風邪」ともいわれるくらい、誰でもかかってしまう可能性のある精神疾患です。特に命を扱う仕事を担う看護師は緊張状態に置かれる場面が多いため、仕事に慣れていない1年目や2年目の新人看護師だけでなく、ベテランの看護師でもうつ病になる人が多いといわれています。
「私は医療従事者で、本来は患者さんを看護する立場にあるのに」などと考え、そのままうつ病を放っておくと回復に大変な時間と労力がかかってしまいます。
看護師だからこそ、うつ病になりやすい理由があります。うつ病が悪化したり再発したりしないため、なぜうつ病を発症してしまったのか原因を探ってみましょう。うつ病になった原因が分かれば、その原因を避けた無理のない労働環境を選び、ゆっくり体と心を職場に慣らしていくことができます。
そこで今回は看護師のうつ病罹患率が高い原因とその対処方法、うつ病を発症した看護師の転職ポイントについて述べていきます。
もくじ
看護師のうつ罹患率が高く、メンタル不調が多い原因
厚生労働省の患者調査によれば、うつ病の患者数は年々増加傾向にあります。日本人の10~15人に1人はかかるともいわれる現代病です。
そして看護師にも、うつ病になる人が多いです。以下のグラフは看護の職場でメンタル障害の人がいるかどうかのアンケートになります。
看護師においては3人に1人の割合でメンタル障害をもつ職員が存在することになります。私の勤める職場にも、うつ病で薬を服用しながら仕事をしている人がいます。以前勤めていた職場でうつ病を発症して、それ以来治療を継続しています。
メンタル面の不調がうつ病に直接結びつくわけではありませんが、このように多くの看護師がメンタル面で悩んでいるのです。ではなぜ、看護師はメンタル不調をきたしやすいのでしょうか。これには、以下のような理由があります。
夜勤を行う看護師はうつ病になりやすい
夜勤は昼夜が逆転し、規則正しい睡眠習慣を取れなくなってしまいます。不規則な睡眠習慣の状態であると、少々仮眠をとったところで熟睡感を得られないことが多くなります。その結果、夜勤に携わる看護師は睡眠不足に陥りやすい傾向にあります。
さらに夜勤中は人手が少なく、看護師一人ひとりの仕事量が増えるだけでなく、責任も重くなります。これは、本来休むべき時間帯に心身共に過剰なストレスを受けていることになります。看護師の労働環境の違いによる健康への自覚症状については、以下のグラフに記されています。
日勤のみの働き方と比較すると、夜勤のある看護師のほうが健康状態になんらかの自覚症状をもつ人の割合が増えていることがわかります。
準夜勤や夜勤がある人は、次の勤務に就くまでの休憩時間が短く、十分な休息が取れていない状況にあります。特に3交替勤務では、「準夜勤 → 日勤」「日勤 → 深夜勤」のときの勤務間隔が短く、疲れが取れないまま次の仕事が待ち構えているため、心身の疲弊を感じやすくなります。
このようなことから、夜勤は睡眠不足に加えて、慢性的な疲労を蓄積していくことになるのです。慢性的な睡眠不足や過剰なストレスは、うつ病発症のリスク要因のひとつといえます。
看護師の職場環境自体がストレスを溜めやすい
また看護業界は長年、人手不足で悩まされています。「人手不足で仕事がきつい」と回答する看護師が4割以上を占めます。多くの医療機関では、まだまだ看護師不足であるため、看護師一人ひとりに長時間労働を強いる職場が多いのが現状です。
看護業界は人手不足という状況に伴い、退職や異動、入職など人の入れ替わりが激しいのが特徴です。看護師を辞めたいと思っている看護師は多く、4人中3人は離職意識をもっているとされており、短期間でのスタッフの入れ替わりは頻繁に発生します。
残された看護師もスタッフが入れ替わる度に新しい人間関係を構築していく必要があり、これもストレスの一つといえます。
・喪失体験から起こるうつ病
さらに、看護師がうつ病を引き起こす要因の一つに「大切な人の喪失」が挙げられます。緩和ケア病棟・ICUなどの領域や医療機関の規模によっては患者さんの死はいつも隣り合わせで、日常的であるケースが多いです。
親しくなった患者さんが亡くなるたびに、看護師は喪失感を経験しなければなりません。「医療には限界がある」と頭で分かっていても、死を受け入れられない場面に多々遭遇してしまうのが看護職といえるのです。
女性特有のいじめが起きやすい
なお、看護職はどうしても女性の多い職場であるので、女性特有のいじめや陰口などがつきものです。
当サイトの管理人である私は30代で看護師になって、人生で初めて陰湿ないじめというものを受けました。それまで世間では過酷といわれるテレビ局で企画作家として働いていたのですが、嫌がらせを受けたことはなく、いじめとは無縁の人生を歩んでいました。私は友人も多く、明るい性格で誰とでもすぐに仲良くなれました。
しかし、看護師になってから人間関係の恐ろしさを経験することとなりました。
それは2度目に転職した眼科クリニックで起こりました。「陰口や無視は当たり前」「オペ着は隠される」「昼休憩で座る椅子を一人だけ離される」「仕事は徐々に取り上げられ、掃除しか許されない」「カルテを見てはいけない」など、日々エスカレートしていく様々な嫌がらせを受けました。
新人看護師がどのような嫌がらせを受けても、院長は見て見ぬふりをしていました。クリニックという狭い職場であるため、誰にも相談できずに毎日辛い思いをしました。
このように医療現場は閉鎖された職場環境であるため、いじめを受けても逃げ場が少ないのが特徴です。何度、物品を置いてある倉庫で深呼吸をして、暗い気持ちにフタをしたか分かりません。
こうした閉鎖環境に身を置いていると、自分で自分を追い込みはじめ「何が正しく、何が間違っていて、自分はどのように対処すればいいのか」といった判断ができなくなります。
この状態が悪化してくると「自分はダメな看護師だ。他の職場でも私のような人間は通用しないだろう」と思い込んでしまうため、逃げ場を見つける力すら沸いてこなくなります。このような場合、できるだけ早くそのような環境を避けるように対処する必要があります。
うつ病でも看護師として復職する方法
ではうつ病になってしまったとき、看護師としてどのように対処し、復職していけばいいのでしょうか。次にその方法について述べていきます。
うつ病の症状が強く現れたときは、働きながらの治療は困難となります。なんとか症状がもち直したようにみえても、再発を繰り返してしまうケースが多いです。
うつ病の看護師は仕事に対しても真面目な人が多く、休職や退職となると抵抗をもつ方がいます。休養しても、看護師キャリアのレールから外れたような気がして、取り残された気持ちになることもあります。また、再度復職できるかどうかも不安になります。
しかし一時的にでも仕事から離れ、休養を取ることでうつ病の症状が改善して、無事に職場復帰できる人は多くいます。
うつ病の人は、「どのくらい自分の症状がひどいか」を分かっていないことがあります。「このくらい、いつものことだ」と軽く考えていていると、取返しのつかないほど回復に時間がかかってしまうことがあるのです。
まずは、心療内科やメンタルクリニックなどの信頼できる専門医を見つけ、「どのような症状が現れて苦しいのか、どのようなことで仕事に支障が出ているのか」などを相談するとよいでしょう。
そのうえで、医師が「休職したほうがいいのかどうか」の判断を下します。
ただし、休職となったとしても休職中の職場との連絡は必ず取り続けるようにしましょう。そのほうがあなたにとっても、復職しやすくなります。職場と完全に切り離された状態であると、一層の不安を感じやすくなります。また家に一人でいると孤独感を覚えてしまう人もいるでしょう。
このような心理的なマイナス面を軽減するためにも、定期的な連絡は必要だと一般的にいわれています。
うつ病の経過を把握しておく
なおうつ病は治療により、治癒する可能性の高い疾患です。しかし、うつ病をこじらせてしまうと、重症になりやすく、治りにくくなることがあります。
治療経過は一人ひとり異なることから、「なぜ自分は一向に良くならないのか」と不安になることはありません。このときは、うつ病の回復過程では以下のように気分の波を生じやすくなります。
回復期でも気分の変調が起きやすく、激しい変動があります。例えば、ある日は快調であっても、翌日は落ち込んで布団をかぶって寝ている状態を交互に繰り返します。
悪い状態のときは、本人も家族も「一生このままなのではないか」と不安が強まることがあります。しかし、「この前の落ち込みのときよりは期間が短くなった」など、小さな進歩を認めて、そこに希望を見出していくようにしましょう。
復職が難しければ再就職・転職を視野に入れる
そうしたときうつ病の場合だと、通常は休職する前の職場に戻ります。馴染みのある職場であれば仕事を新しく覚える必要がなく、人間関係も把握できているため、ストレスが少なくて済むからです。
しかし、あなたが今回うつ病を発症してバーンアウトした原因が職場自体にあれば、復職したとしてもうつ病を再発してしまう恐れがあります。例えば、以下のような原因です。
- 夜勤が続き、慢性的な倦怠感を覚えている
- 人間関係に疲れている
- いじめを受けている
- 時間外労働が多い
そのような場合は、思い切って再就職や転職を選択するのが正しいです。「日勤だけの仕事へ移る」「人間関係のゆったりした職場に変わる」「時間外労働の少ない求人を選ぶ」など、うつ病になった原因を断ち切れば、うつ病を予防できるのです。
それでは、「うつ病の再発を防ぐためには、どのような転職先を探せばいいか」について具体的に解説していきます。
一般病棟での病院勤務は避ける
一般病棟で働くということは、「日勤、夜勤、準夜勤という不規則な勤務体系がある」ことを意味します。夜勤が合わないと感じている人でなくても、できるだけ夜勤の無い職場を探す方が賢明です。たとえうつ病が直りかけの状態であっても、整っていた生活リズムが再度狂う恐れがでてきてしまいます。
さらに一般病棟のほうが重症で急変する患者さんが多く、精神的にいつも緊張状態であるケースが多いです。また急患がある場合だと、生死の場面に遭遇する可能性が高くなってしまいます。
患者さんの生死に遭遇することは看護師の仕事にはつきものです。しかし生死に直面するような、心身ともにストレスが溜まってしまうハードな職場では、うつ病を一度でも患った看護師は仕事を続けることができません。うつ病を再発する可能性が高くなってしまうからです。
そこで、おすすめなのが、以下の比較的ゆっくりした環境の職場です。具体的には、以下のような職場が該当します。
- 心療内科クリニック
- 予約制のクリニック
- 介護施設
なぜ、こうした職場がおすすめなのか確認していきます。
心療内科クリニックで勤務する
うつ病を発症しているのに、なぜ心療内科への転職が優れているのでしょうか。第一に、心療内科なのでうつ病に対する理解を得やすいことが挙げられます。また、心療内科はカウンセリングがメインになるため、一般的なクリニックのようにドタバタしにくいことが挙げられます。
例えば、以下は神奈川県にある内科・心療内科クリニックの求人情報の一部です。
「週休4日勤務が可能」「心療内科の医師が在籍」「スタッフの雰囲気が良い」「希望休が通りやすい」など、患者さんだけでなくスタッフにとっても働きやすい環境が整えられています。また転職サイトを通して就職が決まった人からの評判も良ければ、さらに安心して転職できます。
一般のクリニックでは看護師の人数を最低限に配置しているところが多いため、看護師一人一人に任される仕事の量が多く、思った以上に仕事がハードなことがあります。また人数不足のため、有給が消化できず、思うように休日をとれないなどの弊害もあります。
その点、このような心療内科クリニックであれば、無理なく楽な気持ちで働くことができます。
例えば、私の友人はうつ病を発症し、一度は看護師への復帰を諦めていたのですが、転職サイトを利用して心療内科のクリニックに就職しました。年配の医師(院長)はもちろん、友人のうつ病を知った上での採用でした。
仕事としては、採血やカウンセリングの補助が主となります。このときはゆったり仕事できる求人を探したため残業もありません。さらに、有給も必要なときには取らせて貰えると言っていました。また、友人は同じ病気で悩んでいる患者さんの気持ちが理解できるため、その心療内科クリニックでは重宝されるようになりました。
友人のように、うつ病になっていても理解のある職場へ就職することができれば、看護師として復帰して自分らしく働くことができるのです。
予約制のクリニックなら残業なく、計画的に仕事ができる
ただ外来業務だと、一日に出入りする患者さんは不特定多数であり、どれだけうつ病の症状が辛いときも笑顔で接しなければなりません。
そのような一般的なクリニックの勤務の欠点を補っているのが、予約制のクリニックです。例えば、以下のような中途採用です。こちらは札幌市にある整形外科クリニック求人です。
予約制だと一日に来院する患者さんの数は決まっており、残業はほとんどありません。そのため、仕事で精神的に追い込まれることは少ないです。
一般的な病院・クリニックへ転職するのではなく、少しでも仕事の負担を軽減するため、うつ病看護師の復職・転職ではこうした予約制のクリニックを希望してみるのは優れた戦略の一つだといえます。
介護施設も中途採用の再就職先としておすすめ
また、介護施設も再就職先としてはおすすめです。介護施設は入浴介助や食事介助、バイタルチェックなどが主な仕事であり、決まった時間にあらかじめ決められた作業を行う仕事が多いです。急変もあまり発生しません。
不特定の患者さんに会うこともなく、いつも気心の知れた患者さんと接することができるので安定した気持ちで仕事に従事することができます。
ただし、介護施設の中には介護職と看護職の境界線があいまいになっていて、介護職と同様に入浴介助やおむつ交換のような体力勝負の仕事を任される職場があります。そこで、しっかり仕事分けが徹底している職場を選びましょう。
例えば以下は福岡にある特別養護老人ホームの看護師求人であり、仕事内容がきちんと分けられています。
介護施設に転職する前には、看護師と介護士の仕事内容は必ず調べておくようにしましょう。そうしなければ、介護職の人が行うような仕事を含めて看護師が担当しなければいけなくなります。
落ち着いた職場を転職サイトで見つける
なお心療内科への転職を成功させた友人の例を出しましたが、満足いく転職を実現するには転職サイトを活用しましょう。特に人間関係や仕事内容など病院内部の実情については、個人的に転職するのであれば、実際に就職して働いてみなければ分かりません。
しかし、転職前にこれらの内部情報を教えてくれるのが転職サイトです。事前にメリット・デメリットなどの情報を得ておけば、安心して働くことができます。
転職サイトに登録すると、転職エージェントとして転職のプロがあなたの転職をサポートしてくれます。エージェントは、担当しているエリアの病院や施設、クリニックを度々訪れて求人の情報を仕入れているため、人間関係や前任の退職理由などの生の情報を聞き出すことができます。
例えば、以下は茨城県にある介護施設の看護師求人です。
離職率が低いだけでなく、未経験やブランクがあってもOKとなっています。そのため落ち着いて仕事できると予想でき、さらなる細かい内容については担当者から聞き出せば問題ありません。
転職サイトの場合、職場ごとの離職率を把握しています。定着率のよい職場であるほど、転職エージェントに求人は出されなくなります。そのため稀に出る優れた職場の求人を選び、さらには仕事が大変すぎない職場を選択するといいです。
焦らず、看護師として少しずつ前に進んでいく
看護師を続けるためには、うつ病になったとしても焦らないことが重要です。医療関係者だとうつ病の自分を責めがちですが、いまの現状を見直してみましょう。
特に休み明けで、うつ病が好転してきたときは「休んでいた分、もっと頑張らないといけない」「多少は辛くても頑張る必要がある」などと張り切りすぎてしまうことがあります。ただなるべく体や心に負担をかけないように、ゆっくりと小さな一歩を踏み出し、少しずつ仕事に慣れていくように心がけましょう。
また無理だと感じる場合は、早めに転職して職場環境を変えることも一つの方法です。看護師でうつ病を発症した人は多く、頑張りすぎなくても問題ない求人募集を選ぶようにしましょう。
ストレスによるうつ病を発症したとしても、ほどよく働ける中途採用を選ぶことで、自分らしく働くことができます。良い環境の職場に巡り合い、あなたらしい看護を実現していきましょう。
求人を探すとき、看護師の多くが転職サイト(転職エージェント)を活用します。自分一人では頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できます。このとき、病院やクリニック、その他企業との年収・労働条件の交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「対応エリア(応募地域)」「取り扱う仕事内容」「非常勤(パート)まで対応しているか」など、それぞれ違いがあります。
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